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短編

ここは、神社。
鬱蒼とした森の中にある。

この熱帯夜に絳攸と楸瑛は夏祭りに来ていた。


「楸瑛、あれはなんだ?」

「ん?あれは射的だよ」

「じゃあ、これは?」

「これは金魚掬い。あのわっかで金魚を掬うんだよ」

「へぇ…」


夏祭りに来たことがない絳攸にとって全てが珍しいらしい。
まるで純粋無垢な子供みたいに全てを知ろうとする絳攸に、楸瑛は微笑む。

そんな中、絳攸はある物に不思議そうに視線を向けた。


それは変な機械から出て来る、ふわふわした白いもの。


「絳攸、そろそろ花火が始まるよ」

楸瑛の声に我にかえった絳攸は慌てて先に行っていた楸瑛のもとへ駆けて行った。




色とりどりな大輪の華が夏の夜空を彩る。

その美しさに見惚れていた絳攸は楸瑛がいなくなっていることに気がついた。


―――置いて、いかれた


孤独を最も怖がる絳攸は泣き出しそうになった。


―――置いていかないで、お願いだから


今では花火も、明るい提灯も、人も、全てなにもかも色褪せて気を紛らわすなんの役にもたたない。


ふらり、とどこかに足を踏み出した瞬間誰かに手を掴まれた。
驚いて後ろを振り返ると楸瑛だった。
急に全てに色が戻る。

「楸、瑛……なん、で置いて行った…?」

「ごめんね?君が花火に夢中になってる間に綿菓子を買いに行ってて…」

「これ…」

「さっき君が物欲しそうに見てたから」


はい、と手渡された綿菓子を絳攸は珍しげに見遣ると、おもいっきり噛んだ。
綿菓子の砂糖がキラキラと飛び散った。


「どう?美味しい?」

「…甘い」


口の中に広がる甘さが先程の孤独の不安を打ち消す。


「…ありがとな、楸瑛」

「どういたしまして」



ほんのり紅く染まった頬を隠すように絳攸は再び空の華に目を向けた。




元拍手御礼文でした。


あきゅろす。
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