『そうか。
俺のせいなのか…』


俺のせいで、毛利があんな目にあってしまった。

そう考えれば考えるほど、どんどん胸が苦しくなっていく。


「違う!長曾我部のせいではない!長曾我部が死んでしまうかもしれない。そう思うと、不安でどうしようもなくなって。
だから我は…」

目いっぱいに涙を溜めて俺を見てくる毛利に何も言うことができない。


「命は、本当にいつ消えてしまうか分からない。ほんの少しのことでも、ふっと我の前から命の灯が消えてしまうことが…」


毛利はきっと、家族の姿を思い浮かべているのだろう。

いや、俺が知らないだけで毛利は家族以外にも大切な人を失ったことがあるのかもしれない。


「我らは様々な妖術を使うことができる。だが、自分以外の誰かの命を助けるような術は使ってはならないと言われておるのだ。誰かの傷を癒すこと、それは同時に自らへの傷みの還元ともなる」

よく分からないが、痛みが自分に返ってくるってことなのだろう。


「他人の傷を癒そうとするのなら、自ら無傷でいられるとは思うな。幼い頃、兄にそう教えられた。そして、何があっても、私を救うために妖術を使うな、とも」



何で他人を助ける為に妖術を使ったら、自分が傷つくのかは分からないがこれだけは分かる。

毛利の兄さんは、毛利のことが大好きだったってこと。

きっと、自分のせいで毛利が傷つく姿を見たくなかったんだろう。

俺だって、そうだから。

『毛利。ありがとな』

毛利をぎゅっと抱きしめる。

ちゃんと伝わってくる、毛利のあたたかさ、心臓の音、お日様みたいな香り、肩にあたる髪のくすぐったさ―――

全部、毛利が生きてるってことの証。



『俺、どんなことがあっても死んだりしねぇから、だからこれからはもうあんなことやめてくれ』

「だが…」

『大丈夫。絶対に死んだりしねえよ』

こんな可愛い奴おいて、誰が死ぬもんか。

「寿命はどうする」

寿命?

『んなもん知るかよ』

確かに寿命はどうしようもないが、そんなことは関係ない。

とにかく、俺は絶対毛利を一人にしない。


だって、俺は毛利のことが好きだから。





でも…


何故だろう。


今俺の心にあるこの思いは、好きという言葉で表せきれない気がする。


庇護欲とは違う、
この心に溢れかえる気持ちは何なのだろうか。


あと少し手を伸ばせば届きそうな、でも決して届かない、そんなもどかしさを覚える。


クソっ、訳分かんねぇ…


そんな胸のモヤモヤを振り払うかのように、俺は食器を片づけるため台所へと向かった。

『………』

蛇口をひねり、流れ落ちる水を眺める。

俺は毛利のことが好きだ。


なら、この気持ちはいったい…


俺自身に起こった、毛利への気持ちの変化に、この時はまだ気付いていなかった。


-Fin-




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あきゅろす。
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