main_11|01|05 揺らめく熱情に(天戦)


これの続き(一ヶ月後)です。
少し閲覧注意です。

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おめでとうとたくさんの友人に教室で廊下で、声を掛けられる時も、家族に祝われている間も。頭の中には恋人の事しかなかった。
…こんなに心躍る誕生日は何時振りだろう。まるで子供みたいに今日が楽しみで仕方がなくて、そして緊張していた。

18歳になったら、今の関係の先へいく約束だった。
恋人との初めての行為になる。戦人に性行為の経験はない。だから彼と、という意味だけでなく、初めての経験だ。緊張しないはずがない。キスだって、いつもどきどきする。いざ本番という時には心臓が爆発してしまうのではないか。そう思ってしまうくらいの緊張だった。想像でしか知らない未知の行為は恐ろしい。でも、好きな相手と肌を重ねたい思いだって強い。それらがせめぎ合って、頭がパンクしてしまいそうだった。


一向に落ち着かない。戦人はベッドのシーツを握りしめた。
天草が部屋に来るのが待ち遠しい一方で、今更になって心の準備の時間も欲しくなっていた。うー、と意味もなく声を出す。心臓はずっとばくばくと騒いでいて、やたら口が渇いていた。
身体は、それはもう念入れに洗った。隅々まで。部屋では裸で待っているべきかと一瞬思ったが、流石に恥ずかしいのでやめた。準備は万端だ。…心以外は。


―――控えめに響いたノックの音に、戦人は肩を跳ねさせた。
こんな時間に訪ねてくるのは一人しかいない。唾を飲み込み、意を決してベッドから立ち上がる。


「…あ、天草?」
「誕生日おめでとうございます」


扉を開ければ、やはりそこにいたのは天草だった。時間帯を考えてか音の鳴らない拍手と、何時も通りの食えない笑み。僅かに力んでいた体が弛緩するのを感じた。

彼を部屋に入れ、ベッドに座る。…座ったとたんに、小さくぎしりと鳴るものだから、折角ましになっていた緊張が増してしまった。


「…何で正座なんですか?」
「え、あ、う…いや、なんとなく…」
「わっかりやすい緊張ですねぇ」


からかう様に指が頬を撫でる。それはすぐに離れて、体の後ろに回り、戦人を天草の胸へと引き寄せた。

それから戦人の頬に手を添えて、上を向かせる。唇が重なる。戯れにするようなキスではなく、深く絡み合うような口付けだった。


「あ、天草…っ」


名前を呼ぶが、返事はない。天草の表情はいつもの軽そうな笑みではなく、真面目なものだった。どきどきと、胸の鼓動が高鳴っていく。
同時に、指が震えるほどに緊張が膨れ上がる。

天草。もう一度名前を呼ぶ。やはり返事はない。
天草の手が服を捲り上げ、素肌を撫でる。冷たい指。ぞくりと体が震えた。
平坦な胸を指がなぞる。情欲を感じさせる手つきだ。その綺麗な指に、ばくばくとうるさい心臓の音が、伝わってしまいそうだった。


シーツを握りしめたままの戦人の指は、別の生き物のように震えていた。身体全体が小さく震えている。…天草もそれに気付いているだろう。だが、手が体を弄るのを止める気配はない。

身体を触られているだけなのに、息が荒い。心臓の音が激しい。まるで耳の横に、自分の心臓があるみたいだ。


「ぅ、あ、…――――天草…!」


もう一度名前を呼ぶと、ぼろりと涙が頬を伝った。その感触で視界が濡れていることに気付く。その歪んだ視界のなかで、天草がこちらを見た。…抱いてくれとせがんだ時と同じ、困った様な笑顔。


「…戦人さん」
「う、っ、…ご、ごめん」
「謝らなくていいですよ」
「でも、おれ、」
「…優しくしますよ、大丈夫です。怖いことも痛いこともありませんから」


子供を宥める様に。戦人の肌に触れていた手が服の下から抜け出し、戦人の頭を撫でる。先程の様な性的なものを感じさせない、優しい手つきだった。それに安心して、次から次へと涙が零れていく。…馬鹿みたいだ。あんなにしてくれと我儘を言っていたくせに、いざ行為に及ぶとなると怯えて、…また駄々を捏ねる。どこまでも、子供だった。


「ほら、戦人さん」


天草の左手が、戦人の右手を握る。お互いの指を絡ませるように手が重なる。


「優しくします。でも、最後までしますからね」
「う、ん」
「俺だって今まで―――散々我慢してたんです。あんたがせめて18になるまではって」


瞳に覗く色に、はっきりと情欲が見える事に戦人は安堵と喜びを感じた。勿論行為は、…恐ろしい。でも望んでいるし、望まれたい。言葉だけでなく身体でも好きだと伝えられたい。

ぐっと、一度口を引き結んで、それから戦人は自分から天草の唇に自分のそれを重ねた。この気持ちが、伝わればいい。天草が驚いたようにこちらを見ていた。…ああ、そういえば、自分からキスしたのは初めてだったかもしれない。いつかの天草と同じように、戦人は口づけながら自分の腰を天草に擦り寄せた。天草のものの硬さが伝わってきて、どうしようもなく興奮した。欲情されている。それを再確認する満足感に身を任せる。

恐ろしさと、欲情と、それから、偽りのない確かな愛情がない交ぜになって。18になっても未だ子供の自分を支配していた。






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