main_11|01|04 ストロベリー・アウト(天戦)
学パロ。
これの続きです。
18歳未満閲覧禁止。

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恥ずかしいなんてものではなかった。穴があったら入りたいなんてレベルじゃない。死にたいくらいに、恥ずかしかった。

(酒なんて二度と飲まねえ…)

酔っぱらった自分が、どの様な経緯で天草と体を重ねたのか。まったく想像はつかなかったが、やってしまったものは、…やってしまったのだ。酔っぱらっていたとはいえ、無理矢理であれば自分は多少は抵抗していた筈で、それならば天草の体に殴られたような痕跡やらがあってもおかしくはない。だがそれはどこにもなく、つまり自分は自ら進んで、…彼との行為に及んだのか。恐らくそうなのだろう。あの日、目覚めた自分に接する彼との間には、どことなく甘い雰囲気があった。…まるで、恋人同士のような。
もしも強姦であったのなら、違和感のある空気だったのだ。


――――酔っていたのだ。仕方がない。あれからあんなことはないし、気にする必要もない。忘れてしまえばいい。
何度も自分に、そう言い聞かせた。でもうまくいかない。彼の姿が目に入るだけでも緊張してしまうし、目なんて合ってしまった日には顔が真っ赤に、火を噴いたように熱くなる。


「…大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫、です…」


案の定、今日も話しかけられただけで赤面してしまう。顔を隠すために俯くと、苦笑する気配がした。恥ずかしさと気まずさと申し訳なさで、胃がきゅうと萎む気がした。


「…そんなに俺の事が気になりますか」


耳の中へ、吐息と共に吹き込まれて、戦人は驚いて顔を上げた。ばちり、と目が合う。途端に顔の熱がかっと増した。それを見て天草が堪えられない、というようにくつくつと喉を鳴らして笑った。


「か…からかってるん、ですか…」
「すいません。先生があんまり初心なもんだから…」
「………」


天草にとっては、あんな事は――恋人関係でもなく、そう深く親しい訳でもない相手と寝るのは、…何でもないことなのだろうか。


「…右代宮先生って、この後授業あります?」
「え、……ありません、けど…」
「良かった。じゃあちょっと付き合って貰えます?小一時間程で済みますから」
「付き合うって、何を…」


戦人の問いには答えずに、天草は廊下へと出た。慌ててその背を追い、少し迷ってからその隣の、少し後ろの位置から彼についていく。
その表情を窺おうと、ちらりと視線をやる。すると彼もこちらを見て、くすりと音がしそうな笑みを見せた。









「…あの、ここ、保健室…」
「見りゃ分かりますがねぇ」


天草は楽しげな笑みを浮かべたままだ。
こんな所へやってきて、何に付き合えというのだろう。普段からここを預かっている保険医は、今日は出張でいない。そのため保健室は施錠がされ、誰も使えないようになっている。…朝の職員会でそう伝えられた筈だ。もちろん、天草も知っている。

懐から細工をしたピンを取り出し、鍵穴に突き刺して弄る。戦人は唖然とした。


「…ちょ…、な、何してるんですか!そんなことしなくても鍵なら職員室にあるじゃないですか…!」
「んー、あれですよ。今日は保健室は誰も開けないはずなのに、1時間も鍵が職員室から無かったら怪しまれるでしょう」
「…み、見つかったら不味いことでもするんですか」
「そりゃあ中に入ってからのお楽しみですよ」


ぞく、と背筋を寒いものが這った。嫌な予感がする。…様な気がする。
程なく扉が開き、天草に続き戦人は保健室に足を踏み入れた。




部屋に入り、中央へと歩く。丁度部屋の真ん中に辿り着くと同時に聞こえた扉の施錠音に、戦人はびくりと肩を震わせた。
いつか感じたのと同じ、…悪い予感。警鐘が、頭の中で鳴り響いている。何かが、…まずい。


「…せ、先生?」
「じゃ、セックスしましょうか」
「っ…はぁあ!?」


思わず素っ頓狂な声を上げると、又もやおかしそうに天草が笑う。


「な、何…何考えてるんですか!頭おかしいんじゃ…」
「嫌ですねぇ。あんたのためを思ってするんですよ。…俺が思うに、あんたが俺の目すらろくに見れない位に恥ずかしがってるのは慣れてないせいですよ。こういうことに。…もう一回くらいしときゃ、耐性がつくでしょう。話しかけただけで真っ赤になられてちゃ俺もやりにくいんで、」
「どっ…どんな理屈だよ!それ!っわ…!」


思わず敬語を忘れて突っ込むと、近くのベッドに乱暴に押し倒された。
起き上がるより早く手足を押さえられ、そして天草が覆いかぶさってくる。相変わらずのにやにやとした食えない笑みを浮かべた端正な顔。楽しげに歪められた形のいい唇が、笑いを含ませて動く。


「まあ…単に、俺が今したいだけっていうのもありますが」
「一人でしろよ!!え、あ、っ嫌だ、待っ…!」


戦人のネクタイが解かれる。天草はそれで戦人の両手を頭の上でまとめて、さらに暴れられないようにその上に圧し掛かる。苦しくはないが身動きが取れない。さあ、と血の気が引いていく。…本気なのか、この男は。


「時間もそんなにありませんから、さっさとやりますよ?」
「ひぃッ…や、嫌だ…!離せッ、馬鹿!変態…!」
「へえ、変態?ならその変態に突っ込まれて悦んでたあんたも似たようなモンですね」
「だ…誰が!」
「ああ。覚えてないんでしたっけ…あの時はあんなに素直で可愛かったのに。ほら、抵抗しなけりゃ痛くありません。気持ちいいだけですよ」
「そういう問題じゃ…あっ、おい、そこ…!」


いとも簡単にベルトが外され、ズボンを下着ごと下される。


「……っ!」


晒される羞恥に、戦人はかっと頬を赤く染めた。無理矢理に脱がされ見られるだけでも耐えがたいのに、さらにそこに天草の指が絡む。敏感な部分を触られてしまえば、嫌でも声が上がる。


「っあ、あ、あ…!」
「…いいですね、その反応。素直で。…あ、でもあんまり大きい声出すと外に聞こえちまいますから、気を付けてくださいよ」
「クソッ、ふざけん、っひあ…!あっ、んん…!や、っ嫌だって…!」


嫌だ嫌だと繰り返しても、天草が手を休めることはない。やがて自身はしっかりと芯を持ち、上を向いた。響く水音で、そこが濡れていることを知る。羞恥と情けなさで死んでしまいそうだった。

更に、濡れた指が下を撫でる。信じられないところに触れる指が恐ろしい。やがて指は、そっと侵入を始める。耐えがたい感覚に、戦人はとうとう泣き出した。


「…な、泣かないで下さいよ。子供じゃないんだから…」
「う、ううっ、ひ、っく…ざけんな、馬鹿…、こんな、っ…何で、付き合ってる訳でもない奴と、っくう…!」
「…あー、ほら…先生」


宥める様に、頭を撫でられ、ぽろぽろと零れる涙を舌で拭い取られる。すん、と戦人は鼻を鳴らした。


「先生」


もう一度、呼ばれる。
気付けばすぐ目の前に天草の顔があった。ぼやけてしまうほど、近い。吐息を感じた次の瞬間には唇と唇が重なっていた。入り込む舌が口の中を撫ぜる。鼻に掛かった様な声が漏れた。


「ふ、んん、ん、っ――――…んんっ」


甘ったるい口づけにぼんやりとし始めた意識に紛れ、体内にある指が増える。その感触に思わず腰がびくりと震えた。


「っふ、……っは、ぁっ!」


長い口づけが漸く終わり、唇が唾液の糸を引いて離れていく。いつの間にか3本も入っていたらしい指も引き抜かれていった。
代わりに、もっと大きく、熱いものが宛がわれる。まさか、と息を呑んだ。


「っ…や、嫌だ…!そんなの入る訳、」
「何言ってんです。この前ちゃんと入ったじゃないですか」
「知らねーよ、そんなの!」


確かに入ったのだろうが、完全に酔っていた戦人に欠片もその記憶はない。身体は知っているのかもしれないが、戦人にとっては男のものを受け入れる事など初めてと同じだ。得体の知れない恐怖に体を強張らせる。


「…時間があればもっと優しくゆっくりしてあげられるんですけどねぇ…生憎とそうもいきませんから。手早くいきますよ?」
「あぅ、ぁっ、や……ッ!っあ、ぅああ、はぁっ、んッ…!…」


嘘だ、と目を見開きながらも、戦人の体はそれを受け入れていく。


「…先生、感じてるでしょう」
「ちが、感じてな、っんん!っふ、う、ぁう」
「っ、ちょっと、力もうちょっと抜いてくださいよ…きっついですって」
「や、やら、むり…!っあ、あ、動…っ!」


戦人の制止を無視して、天草は腰を動かした。…信じられない。気持ちがいい。くらくらとした。脳が快感にぐずぐずと溶けて、理性が機能しなくなるのを感じた。










「…先生、大丈夫ですか」
「大丈夫に見えるのかよ、これが!」


結局、1時間の筈が、気付けば2時間近く行為に及んでいた。…お互い授業が今日はもう無くて良かった。

腰が信じられないほど痛い。少し休まなければ歩くことさえ満足に出来なさそうだ。


「くっそ…ふざけんな馬鹿野郎…」
「でも先生、あんた途中から随分積極的だったじゃないですか。酒も入ってないのに、」
「うう、うるせぇよ!」


…悲しいが、気持ちよかったのだから仕方がない。男は性欲に弱いのだ。…だから仕方ない。俺は悪くない。


「…敬語使ってくれなくなりましたね、右代宮先生…」
「手前なんかにそんなの使うのが馬鹿らしいのに気付いただけだ」
「……そうですか」


冷たく接すると、少し落ち込んでいるように見えた。たぶん気のせいだ。学校で行為に及ぶような神経の太い人間が、この程度で落ち込むものか。…こんな男の顔を見るだけで真っ赤になっていた自分が馬鹿のように思えた。
(唯の変態だろ、こいつ…)


「俺ぁ右代宮先生のこと好きなんですがねぇ…」
「なっ…はっあ?!」
「好きですよ、割と。でなけりゃ男なんてこっちから願い下げですよ」
「…お前、そういう趣味だったんじゃ…」
「違いますよ。…で、どうです、俺なんて」
「え、…え?」


ぐっと抱き寄せられ、耳元で囁かれる。…端正な顔の造りは、やはり同性であってもどきりとしてしまう。頬に熱が集まっていった。


「戦人さん」


下の名前で呼ばれる。戦人は何も言えないまま、切れ長の目を見つめた。




ストロベリー・アウト
(その時点でおしまい)








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