main_10|05|14 どうしよう、誰かたすけて(天戦)
現代パロ
どうしてこうなったのですか!の続き
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「そんなに精一杯嫌がらなくてもいいじゃないですか、ねえ?」
男は相変わらず端正な顔に、女なら誰でも寄ってきそうな笑みを浮かべ、甘い声で言った。
でも残念なことに、戦人は男なのだ。同性に笑顔で言い寄られたって何も嬉しくない。低いテノールで囁かれたって、靡き様が無い。
「…どっか行けよ」
「嫌です」
「………」
不快感を表情に前面に出して、犬が威嚇するように低く唸って睨みつけても、天草は涼しげな笑みを浮かべているだけだ。
大学の食堂に一人で来てしまったことを、戦人は今更ながら後悔した。どれだけ殺気の篭った目で睨んでも、戦人の目の前の席に陣取った天草は怯む事さえしない。
天草が席を立つ気配はまったく無い。仮に戦人がここから離れても、きっとついてくるに違いない。とうとう戦人は諦め、食事に専念することにした。
頂きます、と両手を合わせてから、机の上のオムライスを食べにかかる。…痛いくらいに見つめてくる天草のことは、雑草か何かだと思うことにした。
「…可愛いもの食べてますねえ」
楽しそうな声。顔を上げなくても天草がにやにやと笑っているのは想像がついた。何が、可愛いものだ。そう言われても何も嬉しくない。寧ろ煩わしい。
(…無視だ、無視)
今日も可愛いですねとか、男に言うにはおかしい言葉を投げ掛けてくる。戦人は無視を決め込み、返事どころか視線さえ向けないのに天草はやはりどこか楽しそうだ。
…段々と、恥ずかしくなってきた。(何で俺はこんな所で野郎に口説かれてんだ) 居辛くて、逃げ出したくなる。
半ばかき込むようにオムライスを平らげ、戦人はようやく顔を上げた。天草と目が合い、反射的に目を逸らした。
「あ」
呟く声と共に自分に向けて伸ばされた手に、戦人は身を強張らせた。天草の指が戦人の口の端を拭う。指は戦人を離れ、赤いものがついているのが見えた。ケチャップだ。
目を白黒させている戦人を余所に、天草は指についたそれを舐める。
「付いてましたよ」
にこり、と。向けられる爽やかな笑顔に、戦人は頬に熱が上がるのを感じた。わなわなと唇が震える。
「…うるせえ、変態!」
ごしごしと乱暴に口元を拭い、戦人は勢いよく席を立った。逃げるように食堂から出る。後ろから天草の声がした気がしたが、振り返らなかった。振り返れなかった。
(訳わかんねえ)
頬は相変わらず熱く、心臓は走った後のように煩かった。
どうしよう、誰かたすけて
(自分は変態に絆されかけているのかもしれません)
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