main_10|05|04 どうしてこうなったのですか!(天戦)
現代パロ

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くだらない冗談で周りを沸かせながら、戦人は内心困惑していた。

人数が足りないと、無理矢理大学の友人に引っ張られた合コン。相手の女の子はみんな、笑顔を浮かべ戦人に視線を向けていた。それはいい。友人たちが棘のある視線を送ってきてるものの、何の問題も無い。
問題なのは、向けられる視線の中に種類が違うものがあるということ。

ちらりと、戦人は酒を煽りながら目を遣った。『彼』は相変わらずこちらを熱心に見つめていて、戦人は更に困惑した。
自分よりは少し年上だろう、知らない男だ。恐らく友人の知人か何かだろう。とても女に困っている風には見えないから、きっと自分と同じように人数が足りないとかなんとかで連れて来られたに違いない。
そんな、ろくに知らない、『彼』。確か天草という名前だった気がする。天草は、それはもうずっと戦人を見ているのだ。
その視線に悪意は感じられない。どちらかと言えば、女の子たちの視線と似通ったもの、のような気がする。しかしそれはおかしいだろう。
合コンに来て、男を見つめてどうする。


(それとも、俺が、何かしたかよ)


気付かない内に失礼なことでもしてしまったのだろうか。だが記憶を遡ってもそんな覚えは無い。
どうしたらいいか分からず、戦人は天草の方を視界に入れることさえできなくなった。此処から、逃げ出したい。ただただ、居辛くて仕方が無い。


「…悪い、俺ちょっとトイレ」


耐え切れずそう告げて、戦人は席を立った。部屋から逃げるように出て、言葉通りトイレへ向かう。
便器や個室が並ぶトイレは、広々として誰もいなかった。戦人はようやく息をついた。


(…疲れた)


視線を受ける事自体は慣れているし、別に苦ではない。だがあの視線は、どうしても駄目だった。何故だか自分でも分からない。天草のことも、何も知らないが嫌いという訳でもない。
なのに、どうして。


「っ、」


がちゃ。扉の開く音に、戦人は驚き肩を強張らせた。銀の髪が、見えた。


「ああ、…えっと、戦人さん、でしたっけ」
「…おう。…なんだ、お前もトイレか?」


内心動揺しながらも、何とか普通に受け答えする。天草は軽薄な笑みを浮かべたまま、戦人へと歩み寄った。


(やばい)


直感的に、そう思った。どうしてだろう。非常に不味い状況に陥った気がする。
とん、と天草が、戦人の横、壁に手をついた。追い詰められたような体勢。戦人の頭の中で、警鐘が鳴り出す。


「…お、おい…何だよ…?」


背中を嫌な汗が伝うのを感じた。顔が引き攣るのが分かる。
天草が軽く身を屈め、顔を近づけてくる。目の前の端正な顔に戦人は身を引こうとして、背後は壁で当然それは叶わない。


「…今日は無理矢理、連れてこられたんですけどね。幸運でしたよ」
「な、…何が?」


「貴方に会えて」


さっと、血の気が引くのを感じた。視線に感じていた違和感が、はっきりとしたものになる。


(こいつ、危ない)


逃げないと、多分、いやものすごくやばい。なのに体は動かない。切れ長の目に、まるで縛り付けられたようだ。
天草の薄い笑みが、深いものに変わる。戦人はそれを見て肉食獣の目だと思った。捕食者の、残酷な笑み。相手が蛇なら自分はさながら鼠といったところか。…笑えない。


「一目惚れしました」


変態。戦人の中で、天草の位置が決定付けられた。



うしてこうなったのですか!
(ああ神様、)






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