far memory
04
さむい、つめたい。そんな理由をつけてもっと近づいて、自分の口をしのぶのそれとくっつけた。
腕を背中に回して、一体化しちゃえばいいのにってそんな思いで心の中をぐちゃぐちゃにして、しのぶを貪った。
自分の舌をしのぶの舌と絡めると、涎がくちゅりと混ざり合ってひとつになった。思うが侭に動き回るそれを、止めるヤツはひとりだって居ない。しのぶも俺に合わせて、俺の舌に自分のを絡め出した。口腔全てを犯す。これ以上ないくらい、これ以降ないくらい、
すきだ、すき、だいすき、あいしてる
そんな短い言葉じゃ、どんなに頑張ったって足りない。
すきって、あいしてるって、どうしてそんなに短いんだろう。
もっと長かったらいい、ああ、でもきっとそれでだって足りない。
しのぶ、しのぶ、そう俺は、今まで何回呼んだっけ。
振り向いて呆れたように笑うしのぶが、大切すぎて怖いんだ。
ぎゅうぎゅうと抱きしめる、
さむいね、こわいね、今まで、ごめんね。
なあ仁、痩せたな。
俺のせい?
だったら、ごめん、でも嬉しい。
俺、どうすればいい?
なんでもするから、許してほしい。
しのぶの嫌がることはもう何にもしねえ。しのぶに危害加えるやつはみんな殺すよ。しのぶに触れたやつの手はへし折って、しのぶが泣いたらその原因を消すから
元々太くなかった仁の体が前より小さくなってて、ただただ怖くなった。
消えないで、
なんでもするから。
そうやって抱きしめていたかと思ったら、しのぶは突然俺を押しのけて怯えた顔をした。
「……お前、誰だよ!な、何してんだよ!」
しのぶ?
「…何って、……俺は、」
「つか、ここどこだよ…てかなに、つめたっ、死ぬだろこれ!」
バシャバシャと水をかき分けて、仁は岸に上がった。
それに続いて俺も上がり、しのぶが離れたことによって寒くなった体はくしゃみをした。
「…なあアンタ、ここどこか知ってる…?」
「どこって…つか、なんだよアンタって」
怒っているのか、俺のことをそんな風に呼んでくる仁。頭にきて、少しだけ声に怒りを込めた。
「なんか、よくわかんねーけど、このさみい冬に水浸しで俺のこと抱きしめてたヤツ相手に、敬語なんか使えるかっつーの」
「は…?」
「なんだよ」
こっちを見た仁は、さっきの、熱を含んだような熱い目で俺を見上げて舌を絡ませてきたヒトとは違った。
仁の目が、語っていた。
お前は、誰だって。
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