far memory
17


「……俺、行かなきゃ」
「は?」


俺は、楽を追いかけなきゃいけない。頭からそうやって体全体に司令が出ていて、足を踏み出した。

「待てよ」


手首を掴むジンの手は妙に冷たかった。


「後悔、するかもよ?」



意味深なジンの台詞。なのに、本当にそうなりそうで怖かった。ジンは底知れない。楽以上に何も分からなくて、そもそもどうしてこんなに俺に構ってくるのか。



「いい、…後悔しても」
「…そ」
「行かねえと、始まんねえから」



スルっと手が離されて、俺はすぐに駆け出した。


息が切れる。



追わなきゃいけない。俺は、一回ちゃんと、あいつと向き合わないといけない。お前にとって、今の俺はどんな存在なんだとか、傍に居ちゃダメかとか、

俺、きっと、お前と一緒に居たいんだ。


「ハアッ、は、っ」


体育のマラソン並に全力疾走して、頭の中で出来上がっている恩田楽のルートを辿る。この道をまっすぐ行って、その後はなんでか狭いほうの道に逸れて、そっから下までジャンプして…


きっと俺は今お前をちゃんと追いかけれてる。お前のこと、何にもわかんないって思ってたけど、それでも一緒に居た時間は確かにあったから。




「っ」


公園を通り過ぎたところで、見慣れた後姿を俺の目が捉えた。

やっぱりそうだ。この道で間違ってなかった。


幼なじみなんだ。俺たちは……。




「楽、」


そのまま走って、楽の肩を掴んだ。

振り向いた楽は少しも驚いてなくて、その代わりめんどくさそうな顔をしていた。


「…怪我、どうした」
「別に」
「なんで、」
「放してくんね?」
「…楽」



どうしてそんなに俺から逃げるんだよ。どうしていきなり突き放すんだよ。わかんねえよ、お前が何考えてんのか、


「行くとこあるから」
「どこだよ、行く前にちゃんと手当てして、」
「してあんだろ」
「だって、血が」

「いいから放せって……」

「でもっ」
「もうお前とは居られねえんだよ!!」


体を押されて、少しよろけた。


なあ、悲しくて、苦しくてたまらないのは俺の方なのに、どうしてお前のほうが辛そうな顔をするんだよ。


「…悪い」


「っ行くなよ!!」



逃げるなよ、

そう言ったらお前は苦笑いしてまた俺にカメラを向けた。


なんで分かってくれないんだ。どうしてすぐにそれで誤魔化すんだ。ふざけんなよ。どうして俺ばっかお前のこと求めてんだよ、


カメラに手を伸ばした。奪い取って、ぶん投げて、ぐしゃぐしゃにして、もう使い物にならないようにしてやろうと思った。そうしたらもう本当に俺以外の人間はそれに写せなくなる、そして俺さえも写せなくなって、もう俺に対して何かをはぐらかすことはできなくなる。

だけどそれは当たり前に楽の首に引っかかっているから奪い取れなくて、逆に俺の手首が壊れるほどに掴まれた。



「すぐ、モノに当たる」

「いたっ、い」

「いい加減、怒るけど」

「…や、め」

「……もう、無理なんだって」


本当はもう、お前だってわかってるだろ…?そう問いかけるような表情と、緩んでいく拘束。痛みが引いていく反面、もう二度と楽を掴めない気がして怖くなった。

痛くてもいいから、ずっと俺を捕まえていてくれればいいのに、それなのにお前は


もう何も言わないで俺から離れていった。






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あきゅろす。
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