中編
01
地面に視線を落とすと、自分の影があった。
ちりぢりになった、今までの全部の記憶。
何か忘れちゃいけないことが、絶対あったはずなのに、何も思い出せない。
ああ、酒は呑んでも呑まれるなってよくいうよ。
そこで、地面の影が一部濃くなった。後ろから抱きしめられる感覚に身じろぎすると、確かに聞いたことのあるような声が聞こえた。
「なあ、一緒に死ぬ…?」
「…わりいんだけど、思い出せねーんだよ」
「は?」
「俺、あんたに一緒に死ぬとか言ったっけ」
「…言った」
「そうか…」
思い出せない、けど、
「じゃあ、いいよ」
どうせこのままこのあつくるしい太陽の下に立ってたって何かが変わるわけでもないから、あんたと一緒に死んでやる。
お返しの嘘っぽい笑顔が、俺まで笑わせた。
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