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エレジーコレクション
9.優しい鬼

政宗様のすべてを受け入れ、愛情を注いだ鬼。

…彼もまた、隠された左目に幼少の頃から思い悩んでいた。




『光に嫌われてんのよ。この、赤い鬼の目は……。眼帯なしじゃ、お天道さまの下も歩けやしねぇ』




そう言って苦笑した、鬼の赤い左目の周辺……。
自分で傷付けたのだろう……消えることのない古傷が、幾つも残っていた。










異形の子、鬼の子と蔑まれ、人の目が怖く部屋に籠りがちな子供だった。
読書を好み、人前には滅多に現れず、姿を見せたかと思えばすぐに隠れてしまう。
人見知りが激しいこともあったし、顔の左半分を隠す包帯……その奥に負い目があり、人から逃げ隠れしていた。

更には、土佐の男には珍しく気性の大人しい子で、白すぎる肌に女子のような顔立ち……。
家臣からは、まるで姫のような若子…『姫若子』と馬鹿にされていた。




あんな兄貴風を吹かせた爽やかな鬼の、暗い暗い幼少時代……。




その話を鬼の家臣から聴いた時、俺は鬼が他人だとは思えなくなっていた……。
政宗様も同様、暗い幼少時代を過ごされたから……。










坊やは……政宗様の心の痛みや苦しみがわかってしまい、放って置けなかったのだろう……。




政宗様は、面倒見の良い鬼に遠慮することなく甘えた。
度を越した甘え方に、何度坊やを困らせたことか……。

帰る場所のある鬼は、ずっと奥州に居る訳にもいかない。
四国へ帰らなければならない鬼に、睡眠薬を飲ませて滞在期間を無理矢理延ばしたことも……。

政宗様の独占欲は、日に日に強まっていった。

……それでも鬼は、政宗様を突き放すことはしなかったのだ。










それが、優しい鬼の愛情表現だった。










周りから見れば……それはまるで、親代わりのような兄と駄々っ子な弟だろう。

しかし。
俺からしてみれば……。

互いに、傷を舐め合っているようにしか見えなかった。




ふたりの想いは
どこか危ういものだと
俺は感じていた……。










……まだ若かった政宗様は、時折心が不安定になることがあった。
自分の抑えが効かなくなるほどに……。

そんな時、銀色の鬼がふらりと現れた。

鬼は、あるがままの荒ぶる竜を受け入れ、許し……
その不安定な竜の心を、鎮めたのだった。

傷だらけの鬼の、何とも痛ましい姿……。










それでも、健気な鬼は……










穏やかに微笑んでいたのだ。










この鬼は何故……自分の身を犠牲にしてまで、政宗様の心を守ろうとするのか……。

痛めつけられても尚笑っていられる鬼。

……どこか、おかしい。
まともじゃねぇ……。




坊やは、心に闇を抱えている。




『こんなにも熱心に欲しがられたのは……生まれて初めてだ……』




傷の手当てをしていた時……坊やはボソリと呟いた。

儚い笑みを、浮かべながら。




……救われていたのは、政宗様だけではなかった。
この鬼もまた……自分の存在を必要とされていることに、救われていたのだ……。










……そんな




頼りなさげに微笑む鬼が




酷く美しく……










愛おしかった……










俺は……政宗様のためならば、いくらでも汚れ役になる覚悟があった。
剣の道を極めたのも、政宗様の障害にならんとするものを斬るためだ。
すべては、政宗様のため。

それが……。

新参者の鬼のお陰で、俺の中に要らぬ感情が芽生えてしまった。

それは……決して口に出してはならない想い。










あの鬼が……坊やが欲しい。










優しく微笑む坊やを、この手に抱き締めたい……。




……コワシタイ……。










俺の心の奥底にある、凶器じみた感情

……どす黒い闇……

あの頃の俺はただ、その想いを押し殺すしかなかった…。

俺は、政宗様のために在る。
それが、俺の……竜の右目としての役目。




……その思いは、この世でも変わりはしない……。










……だが、後悔は二度としたくないものだ。

とりあえず…今はまだ、幼いふたりを見守ることにしよう……。










再び……

銀色の鬼に出逢えただけでも

俺は

幸運なのだから……。






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あきゅろす。
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