エレジーコレクション
‐夢幻‐ 弐
長曾我部は、豊臣に捕らわれるよりも、我に殺される事を望んだということか……。
「…毛利は、俺の最期のわがままを叶えてくれた。俺は、毛利に救われたのさ…」
我の選択は、間違いではなかったのだ。
……だが……。
「我は、貴様を殺したのだ」
この手で……
愛しきものを……。
その事実は、変わらぬ。
「……辛いことさせて、済まなかった……。ずっと、苦しませて、済まなかった……」
「…………」
「ごめんな、毛利…。俺だけ楽になっちまって、苦しませて、ごめん……」
長曾我部の顔が、悲しみの色に染まる。
嗚呼……。
罪に苦しんでいたのは、我だけではなかった……。
……長曾我部も、また……。
「毛利……」
「なんぞ」
「ごめんな……ありがとう」
「…………」
「見つけてくれて、ありがとう……。拾ってくれて、ありがとう」
…突然、何を申すのだ…。
「もーり、だいすき」
「!」
そう申した長曾我部の白銀の髪から、獣の耳がぴょこんと現れた。
腰からは白銀の柔らかな尻尾がゆらゆら揺れておる…。
「あんがと、もとにゃり!」
「?!」
舌足らずに告げた長曾我部……のようなものは、頭を傾けにこりと笑った。
チリン…と鈴の音が鳴る。
その白い首には……見覚えのある、鈴付きの紫色した紐が結わえられていた。
「紫…っ」
「にゃぁ〜」
「ー――っ!!」
†††
目が覚めた。
我の顔の横でスヤスヤと眠る白銀の猫、名は紫…。
ひとつ溜め息を吐いて上半身を起こせば、紫ももぞもぞと動き出す。
細長い手足をぐんと伸ばし、欠伸をする紫。
その潤んだ青灰色の隻眼と、目が合った。
「…………」
「……にゃ…?」
「………………」
あれは…こやつが見せた夢幻だったのか…?
……やけに頭がすっきりしておる……。
あの夢で苦悩が和らいだのであろうか…。
白銀に輝く頭を撫でやると、ゴロゴロと喉を鳴らし出す。
…今度こそは、最期まで我が面倒を見よう。
やり直す機会を与えてくれた、あやつの為にも……。
「……のう、紫……」
「……にゃ」
目を細め穏やかに微笑んだ。
†おかえり、紫の君‐夢幻‐終†
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