エレジーコレクション
‐夢幻‐ 壱
「…………り……もーり…」
この、しゃがれた声……。
……我は、知っておる。
「……長曾我部……」
爽やかな風に頬を撫でられ目を開けて見れば、そこは小高い丘であった。
瑞々しい草原に、どこまでも広がる雲ひとつない青空…。
横に視線をやれば、あの頃のままの長曾我部がおった。
いつもの野蛮な戦装束が風になびいている。
…あやつは、七年前に死んだ筈…。
では、これは……。
「夢、か……」
「……毛利……ありがとう」
目を細め穏やかに微笑む姿は、紛れもなく長曾我部であった。
「俺は、しあわせ者だ」
「……死んでも尚、幸せだと申すか」
「あぁ。しあわせだ」
「何故…」
「だって……こうしてまた、巡り逢えた」
本当に、幸せそうに笑う。
「これは、夢ぞ……」
そう。
夢なのだ…。
†††
我は、豊臣と同盟を結んだ。
長曾我部は「仕方ねぇな」と、無理して笑おうとしておった。
我には、泣き顔にしか見えなかったが。
「お互い、国を守る為の政策だ。こればかりは、どうしようもねぇ……。あんたが敵になっちまうのは……残念だけどよ……」
何処か遠くを見る隻眼は、涙で潤んでおった。
そして……次に顔を合わせたのは四国の地。
…豊臣の大軍と我が軍に攻め入られた四国は、長曾我部の奮闘虚しく敗れた…。
自害する事も許されず、生きたまま捕らえられた西海の鬼は、やがて豊臣に慰みものにされた挙げ句……殺されるであろう。
豊臣に連行される時…。
目が、合った。
……我は、手にしていた輪刀を振り下ろしておった……。
豊臣に、渡さぬ為に。
唯一、愛したものを、手に掛けた。
†††
「ありがとう」
貴様の命を奪ったのは、我だというのに。
何故、礼を言われるのか…。
「俺は、毛利に助けられてばかりだな」
「何を言う。我は貴様を…」
「豊臣のものには、なりたくなかったから」
「!」
あの時……目が合った時。
長曾我部は隻眼に涙を溜めながら『殺せ』と、血糊のついた口が動いたのだ。
だから、我は……。
「最期があんたで、俺はしあわせだった」
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