エレジーコレクション
10.ハンカチ
放課後…
いつも通りの賑やかな校庭…
門の側……こっちに背を向けて、伊達コンビがしゃがんでいる姿を発見した。
……何やってんだろ？
小十郎待ちかな？
「Hey hey！ どうした？ その程度か？」
……？
「アンタの実力は、そんなもんじゃないはずだ……」
…………ちょっとだけ。
通り過ぎる時に、ちょっとだけ……。
見るっっ!!!
あっっ…!!
「Shit！ なにすんだ、このバカ猫!!」
超現場目撃ッ！
手の甲……！
猫に、思いっきり引っ掻かれちゃったよ政宗……！
「アッハハ〜！ ダッセ〜！ 政宗ダッセ〜〜！」
「Shut up!!」
俺の新品の制服の両ポッケには、ハンカチが一枚ずつ入っている。
その片方……使ってない方を、彼の手の甲へ、そっとのせた。
「ΣOh!!!!!」
「Σっっ?!!」
「Σぅわっ!? 銀色ぉ…?! は〜、ビクッたぁ〜！」
三人で、ビックーン！
三ビックーン！
「いっっ、いきなり現れんな……！ 妖怪ブスチカーッ！」
「ごっごっ、ごめっっっ…」
あわわわ…。
ごめん…っ！
声、掛け忘れてた……。
猫も毛を逆立てたまま、動き止まっちゃってるし。
四ビックーンか…。
ごめんね…？
「……ア、アンタも俺のこと、嘲笑ってんだろ……！」
ひねくれてるよな、政宗。
「血……出てた」
「…………Ha！ 女みてーなハンカチィー―――!!」
「…………」
淡いブルー地に、薄紫と桜色の大小水玉模様。
目に優しい、パステルカラーである……。
うん。
なんで、このハンカチなんだろう。
生活品の全てを元就に任せたのがまずかったか？
もうひとつの、若草色のハンカチは使ってあるし……。
仕方ないよな。
ここは逃げるが勝ち……ってやつか？
また、馬鹿にされる前に……。
俺は伊達コンビを置き去りにして、そそくさと帰り道を急ぐのだった……。
「……余計なことしやがって、あのブス……！」
「政宗……顔、赤いよ？」
「Σ!!! Go to hell!!!!!」
「政宗様！ 汚い言葉は使ってはなりませんと、何度も申したハズですが？」
「げっ…。小十郎……」
「ん?! どうされたのです、その手は…!!」
「Don't worry！」
「ネコ、じゃらしてたら引っ掻かれてやんの政宗」
「成実、てんめぇ〜〜っ!!」
「やーい、やーい♪」
あぁ……やれやれ……。
「猫がお好きなことはわかりますが……。はて、政宗様……。その様な可愛らしいハンカチ…お持ちでしたか？」
「Σ!!! バ…ッ!! 俺んじゃねぇぇー―――っ!!!!!」
お顔が真っ赤ですよ、政宗様。
そんなにムキになるとは、ただごとではない……。
…………!!!
「嗚呼、なるほど！ 政宗様のために、心優しい女子が手を差しのべて下さったか…！ くうっ！ …小十郎、嬉しさのあまり、涙で前が見えませぬうっ……!!」
「ちっげーよっ!!! バーカ!! 帰るぞ！ 車出せ、小十郎！」
ひとり先に車に駆け込んでしまわれた…。
よほど恥ずかしかったのだろう。
「なー、片倉ー」
「なんだ、成実…？」
「アレなー。……銀髪美人が渡してくれたんだぜー」
「銀髪…………………！」
嗚呼……
どうやら、この世の鬼も優しい鬼のようだ。
優しい優しい銀色の鬼……。
けれど、どこか病んでた鬼だった……。
「小十郎ォォー――ッッ!!!」
おっと、いけねぇ。
将来の主が、おカンムリだ…。
「ただいまぁ…」
元就が居るかどうかはわからない…。
彼は、社会人である。
六時頃帰ってくるか、自室で四台のパソコンとにらめっこして、たまに部下と電話してるか……だ。
「………………」
……うん。
今日は、外……会社だな。
当然のように、着物に着替えている俺。
帯は前で結んじゃうんだ。
後ろで結べないから…。
「……ふあぁ……ぁ……」
ねむぃ……。
元就が帰ってくるまで、ちょっと昼寝しちゃおうかな…。
どうせ、ヒマだし。
あ〜あ……
早く帰って来ないかな……。
ここは、俺ひとりじゃ広すぎるよ……元就……。
淋しいよぅ…………。
温もりが……
欲しい……
……俺は、
自分で自分を温めるように
身体を小さく丸め
瞳を閉じた……。
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