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SHOUT−シャウト−
第1章(10)
ttggカチッ

草薙がスティックを置く。そしてそのまま立ち上がると那音の頭をぽんと撫でる。

「気に入った」

そして秋山を振り返る。

「ミツグ、おまえもだろ」

秋山はちょっと不服そうに口をとがらせながらもうなづいた。



草薙はそっと那音の手をとる。

「こんな小さな手であの早弾きを」

そして那音の指先のタコにそっと触れる。

「そうとう練習したんだな」

そう言って笑いかける。草薙の強面が一瞬にして柔らかくなった。



那音は田辺を振り返る。

田辺もやったなとばかりに親指を立てる。

ああ、認められたのだ、そう思うと那音の顔がほっとゆるんだ。



「さっきは悪かった」

いつのまにか秋山も那音の横にやってきていた。

「薬師の影ばかり見ていておまえ自身を見ていなかった」

そう言って秋山は那音の頭を撫でて那音の顔を覗き込む。

「ん?」

「な、なんでしょう」

秋山の顔が近づいてくる。

「おまえ」

秋山はスルリと那音の顔からそのメガネをとりあげ自分の顔にかけてみる。

「やっぱり、コレ度が入ってないな」



「ナ、ナオ!!」

突然素っ頓狂な声を上げたのは田辺だった。

秋山にメガネをとりあげられた那音の素顔、それはあの夜一瞬垣間見た少女そのもの。

そこにいたのはさきほどまでの地味なメガネ小僧などではなかった。

蝶が孵化するかのような華麗なる変化であった。


「おまえこんな綺麗な顔してたのか」

秋山があきれたようにため息をつく。

「ああ、これでわかった。アノ薬師があれほど溺愛する理由が」

そう言いながら那音の顔にメガネを戻してやる。


「ぼ、ぼく。小さな頃は遠視でメガネをかけていたんです。中学の頃にはもう正常に戻ったんですけどなんだか顔にコレがないと淋しくて」

那音はそう言ってメガネに触れる。

「薬師からもはめろと言われたんじゃないのか?」

「え?どうしてそれを」
秋山の言葉に那音は驚く。



「ま、アレだな。この学園でおまえみたいな小さくて綺麗なヤツは危ないからな」

そう言って秋山は肩をすくめた。




そんな那音をじっと見つめる目。

「ん、ナギどうしたん?」

「いや」




草薙は那音のギターを手に取る。そしてそのネック部分にそっとくちづける。

「リナ・・・」

草薙のつぶやきは誰にもきこえなかった。









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