ハピネス -13- 家に帰ると居間のテレビの前に座り、父親はテレビゲームに熱中していた。 「おやじーっ、何か食う?」 聞いても曖昧な返事しか返ってこない。 こんな風に没頭してる時、何を言っても無駄なので洋平は台所へ行ってしまった。 電話のベルが鳴った。 「おやじーっ、電話ーっ」 手の離せない洋平は父親に出るように言った。 が、出る様子がない。 「おやじーっ、マジに手ぇ離せねえんだよ」 大声で叫んだ。 「あぁあ、洋平が大声出すもんだから全滅しちゃったじゃないか」 と、負けを洋平のせいにして重い腰を上げて電話に出た。 「はい、水戸です」 『…………』 応答のないそれにもう一度呼びかけてみた。 「もしもし」 『……流川です。洋平君―――』 出たのが洋平じゃなかったのに流川はびっくりしていた。 「洋平ーっ、流川君からだぞ」 (流川!?) なんなんだろうと思い、手を拭いて居間に行った。 「俺」 『今の親父さんか?』 「ああ。んで、何?」 『土曜あいてるか?』 「この前もわかんねえつったべ。どうせ目的はアレだろ。駄目だかんな。んじゃ切んぜ。メシ作ってんの途中だかんよ」 勝手に切ってしまうとまた台所に戻ってしまった。 タンッと包丁をまな板に乗っかっている人参に振り下ろした。 「わかってんのか、あいつ」 一人ぶつぶつと呟く。 いつのまにか自分の世界に入ってしまって、鍋が吹きこぼれているのにも気づかずにいた。 急いで火を止め、鍋の蓋を開けた。 「熱っ」 軽い火傷をしてしまった。 手を振りながら鍋の中の様子を見てみた。 中身のシチューは多少煮こぼれてしまったものの食べられなくはない。 「まあ、大丈夫だな」 親父が食うしと。 [*前へ][次へ#] [戻る] |