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ハピネス
-10-
洋平は家の鍵を鍵穴に差しこみ回した。ノブを捻って引いたらロックしていた。もう一捻り直して開けた。
「?…もう帰ってきてんのかぁ?」
靴を脱いで中に上がりリビングのソファーにカバンを投げると書斎を覗きこんだ。
「おやじ?」
部屋中に入ってみたが誰もいなかった。
寝室も覗いてみたがいなかった。
思い違いかとキッチンへ行き、ペットボトルのコーラを冷蔵庫から出すとそのままラッパ飲みをした。
ソファーに座りリモコンでテレビをつける。
しばらく見ていたがお腹が減ってきたので冷蔵庫を覗いてみたが大した物がない。
「なんにもねえな。コンビニにすっか」
上着を取ってきて買いに出た。
近くのコンビニに行き、弁当の置かれているコーナーへ行った。
ちょうどピーク時間だったようで棚にはあまり品物がなかった。
言葉には出さないもののがっかりだった。
さして食べたいと思うものがない。
その上のおにぎりの棚も見てみたがシーチキンは売れてしまって昆布だとかおかか、その横には納豆の手巻き寿司。げっそりしそうな品物ばかり。
隣の棚のサンドイッチなどのある棚も同様でタマゴサンドくらいしかなかった。
(ホントねえな)
別にこれといったものなどなかったがもう一度、弁当の棚に戻りハンバーグ弁当とタマゴサンドを買うことにした。流れで他の棚も見て回った。
その通路に見知った顔の人がいた。
(おやじ!?)
アルマーニのスーツをラフに着こなし、フェラーリの縁なしメガネ。どう見ても普通のサラリーマンには見えない。どっから見ても業界人ぽい。
そんなんで買い物カゴを持っているもんだから見かける人擦れ違う人一度は立ち止まったりと見てしまう。
(………)
確かに洋平の父は帰っていたようだ。
ここで声なんぞかけられたくないとレジへと急いだ。
いつ気づかれやしないかとひやひやもんでさっさと店から出たかった。
弁当のレンジが終わり、袋に詰められたのを受け取ると、近くにいないことを確かめると店を出た。
「ったく、なんであんなコンビニになんかいんだよ」
ダラダラ歩いているともしかして見つかるかもしれないと洋平は足早に歩いている。
「洋平ーっ」
突然、後ろのほうで呼ばれた。
「見つかった」
ガクリと首を落とし、それでも「おお、親父ぃ」なんて振り返るなんて事はしない。無視を決めている。
「洋平ーっ、洋平くーんっ」
何度も呼ばれるが洋平は無視し続けた。
しかし、家まであと数十メートルというところでそれも終わってしまった。
ガシッと後ろから抱きつかれた。
「洋平っ、無視することないじゃないか。父親がしばらくぶりに帰ってきたというのにこれはあんまりじゃないか」
そう言って頬ずりをしてくる。
(だから嫌なんだよ)
父にとっては最高の愛情表現であって挨拶なんだが洋平にとっては、この執拗なスキンシップが恥ずかしい。
「お、親父、離せよ」
「何故?ボクは君の父親だよ」
子の心親知らずとはこういうことだろう。
「親父がそうやってると俺が歩けねえんだよ」
「おっ、これは失礼」
パッと手が離された。
そして隣へと移り、親子は家まで一緒に帰った。

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