ハピネス -1- 「……ん……」 寝返りをうって何か顔に当たったのに洋平は薄目を開けた。 「 ……な…に……」 覚め切ってない頭はそれが何かをわからず手を伸ばした。 暖かくて少し柔らかい感触を手に感じるんだがそれでもわからずなおも触っているとその暖かいものが動いたかと思うと洋平の手から離れた。 流川は体を起こして、寝ぼけている洋平を眺めていた。 「…………」 普通であったら眠っているところをむやみに起こされて怒るところだが洋平だからその気も失せた。 また寝てしまいそうになる洋平の頬を叩いて起こした。 「……ん……ぅん……」 「起きろ」 「……る…かわ……?」 怒る気はないものの自分だけ起きているのは何か嫌で隣で寝腐っている洋平も起こした。 「……え……と……あんた何でここにいるわけ?」 あまりにもな洋平の言葉。 少々ムッとしながらベッドから出ると床に散らばっている服を拾い着た。 「あっ、そうだった」 ようやく思い出した洋平だがまたしても流川はムッカリ。 さっさと服を着て部屋を出ようとする流川を慌てて洋平は止めた。 「待てよ、流川」 洋平も服を着て、出ていった流川のあとを追う。 「怒ってんなあ」 頭をカリカリと掻きながら上着を持って部屋を出た。 すでに流川はいなくて玄関には靴もなかった。 「まいったなあ」 自分の起こしたことにため息をつく。 とにかく追うことに決めて玄関を出た。 「っと、―――流川……」 スタジアムジャンパーのポケットに手を突っ込んでドアを出たすぐそこに立っていた。 洋平は力が抜けぐったりとしてしまった。 見た目と言動が違って素直な奴だったのを忘れていた。こういうやけに素直なところは花道に似ていて思わず笑える。 「ほれ」 マフラーを流川に差し出した。 「あんた忘れてっただろ」 それを手にしないで自分を見ている流川の考えてることを察するものの洋平はそれをはねつけた。 「女じゃねえよ。自分でマフラーぐらいしろよ」 手の中のマフラーを見つめ、自分で仕方なくマフラーを巻いた。 自転車を庭から出すと洋平もあとを着いてきた。 「なに?」 「帰るんだろ?だったらついでだから乗せてってよ。通りまででいいからさ」 洋平は荷台に後ろ向きで跨がった。 漕いでいる流川の背中を背もたれ代わりにしている。 「なあ、あんたから見て、花道の奴上達してるか?」 「どあほうのことは喋るな」 花道を話の話題に上げると必ず出てくるセリフ。まあ、最初の出会いからして悪かったしょうがないだろう。 「―――― どあほうにしては上達している」 ただ洋平が花道のことを話すのが嫌で言うのだが聞かれればいつもこうして応えている。 「ふぅん」 少し笑い顔をするが流川はそれを見ることはできない。 「あ、そこの信号んとこでいいぜ」 そう言った洋平だが自転車は通り過ぎてしまった。 「おい、流川」 「いいから黙ってろ」 「へいへい」 別に用事もないしとおとなしくいることにした。 どうも海岸通りに向かっているみたいだ。 この先は国道になっていてその脇を海岸が広がっている。 思ったとおり海岸へ入る入り口へ入り、砂地に自転車を止めた。 洋平は歩いてく流川のあとを歩いた。 まだ海岸から吹く風は冷たく、洋平はポケットに手を突っ込んだ。 話すでなく、ただ前を歩く流川のあとに着きながら、人なんてそんなにも見当たらないこんな海も結構いいもんだなと思う。ただ、少し風が冷たいのがな……と洋平はこの散歩なんだかよくわからないが結構楽しんでいる。 「悪りぃ」 突然、流川にそう言われ、何が悪いのかわからなかった。 「あ?」 だからほうけてしまった。 「パチンコ行きたかったんだろ」 「構わねえよ。暇だし」 いつもこうやって流川は強引に人を引っ張り回すくせに後で謝る。 「なあ、そういうのよそうぜ。もし行きたくなけりゃ俺着いてきゃしねえよ」 「……わかった」 わかりゃいいと流川の背中を叩いた。 見下ろし、洋平とまともに顔が合ってしまいドキリと胸が鳴り、そのまま流れに任せるかのように唇を重ねた。 「……!……う……」 いくら人が疎(まば)らにしかいないといっても全然いないわけじゃない。焦り洋平は流川の腕を掴んで自分から離した。 「ッカヤロウ!!こんなとこですんなよ」 「誰も見てなんかいねえよ」 辺りを見回して流川は言う。 確かにいるのはサーフィンをしている連中ぐらいで好き好んでこんな寒いところには来ないだろう。 「わかんねえだろ。ったく、油断も隙もありゃしねえ」 ぶつぶつ文句をたれる洋平。 「あんたの顔がいけねえんだ」 「はあ?」 何を言い出したかと思えば顔がいけないとは。 そこから先を流川は喋らず、スタスタと自転車を置いた場所へ戻っていってしまった。 洋平はしょうがねえなあと頭を掻き、流川を追った。 [次へ#] [戻る] |