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my love
LOVE U DOWN/KK



午前0時。
睡眠用のプレイリストをシャッフルしても何だかイマイチしっくりこない。
もうかれこれ1時間はベッドの上で唸っている。

要するに眠れないのだ。

散歩でも行こうかと外の様子を確認がてらカーテンを開けると外は雨。
この雨じゃあ散歩に行く気にもなれず、まじかぁ、と声が漏れる。

眠れなくてモヤついていた気持ちに
更に追い討ちをかけるような雨だ。
イヤフォンを着けたまま外を見ているとあの日の帰り道、涙を浮かべながら聴いた曲が流れた。


この曲を聴く度に彼女の影を探してしまうから、普段はイントロの部分で速攻シャッフルするのだが、何故か今日は飛ばせなかった。

単純に曲を消せば済む話なのだが、
消すに消せない。

それはきっと、どんなに辛い思い出だとしても
俺自身が忘れたくないからなのかもしれない。



DOBERMAN INCからDOBERMAN INFINITYへ。俺とSWAYさんが加入してから一年半。
土方の職人から、趣味で音楽に触れていたとはいえ、ど素人の俺には、言葉の通じない外国にほっぽり出されたような感覚だった。
生活の何もかもが変わって戸惑いや
焦りもあったし、今では天然キャラだといじってもらうこともあるが、それなりに苦労や壁もあった。
そんな時、グループ、そして俺のことを支えてくれたのがだっ独自タグた。


加入時からそばにいてくれた彼女に、気づけば俺は恋心を抱いていた。

職人時代はそれなりに彼女もいたし、
自分で言うのも何だが、まぁモテた方だと思う。
奥手なタイプでもないし、素直に気持ちを
伝えることも出来ていた。

だけど、それが今できない。

こんなに言葉にすることが難しいのは初めてかもしれない、とさえ思っている。
そして、言葉にも行動にも移してこなかった自分にすごく情けなさと怒りを感じている。


いなくなってしまってからでは
誰かのものになってしまってからでは遅いのだ。


ももに対する気持ちに気付き、自分自身が認めることが出来た時には二人の関係は進んでいた。


俺の入る隙などなかった。

SWAYさんのラップは聴く人の心を掴むとか、強面なのに笑った顔は無邪気で可愛いとか、デザインのセンスが素敵だとか、教養があって話すことが面白いとか。

確にSWAYさんは多才だ。
俺はラップはできないし、デザインのセンスも無ければトーク力もない。
俺に無いものを全部持っていると思う。

最初は劣等感や焦燥感もあった。
俺も加入時に比べて歌唱力も伸びたし、歌に懸ける気持は負けないし、筋肉だって負けていないと思う。
だけど、SWAYさんのことをすごく嬉しそうに話す彼女すらすごく愛おしく思えてしまう。
もう俺はどうかしてるのかもしれないと自分でも笑えてくるほどだ。


ももの片想いではなく、お互いに気持ちが通じあっていることも知っていた。

普段からお喋りで、ふざけたことを言っては場を和ませてくれるSWAYさんだが、もものこととなると小学生みたいに顔を赤らめて嬉しそうに話す。

「おま、SWAY自分だけ抜け駆けか〜?俺らなんも報告されてないんですけど〜?」
「そうやでSWAY!俺らに隠し事はなし言うとるやろ!隠してないで惚気けんならはよ惚気けて〜!」

「いやちょっとやめてくださいよぉ〜!別に俺らまだそんなんじゃないっすから!」
「まだ?!まだってなんやねん!これからそうなるんやろ?!」

メンバーに珍しくいじられるSWAYさんに、俺は笑うことしかできなかった。
ここで俺が気持ちを伝えても何も良いものは産まれない。むしろ2人を悩ませ、傷つけてしまう。
俺はそっと自分の気持ちに蓋をすることに決めた。


ある収録の日、楽屋を出て発声練習をしようとした時、荷物を大切そうに抱えこちらへ走ってくるももと偶然鉢合わせた。

「おっ和希くん!どこ行くの?発声練習?」
「そうそう、ももちゃんは?SWAYさんならさっきトイレ行ったから楽屋にはいないよ」
「…違うよ〜!GSさんに用事!最近みんなSWAYさんとのこといじってくるんだよね」

はにかむ彼女の姿に、胸が痛んだ。

「そっか、寒いから暖かくしなね、じゃ」
「ありがとう、頑張ってね〜」


わざわざ自分からSWAYさんの話題を振るなんて俺も相当な馬鹿だ。
ももが持ってたのはSWAYさんのアクセサリーポーチ。GSさんに用事があるのではない。
これだけ一緒に活動してきてるんだから、分からないわけがない。

モヤを抱えたまま帰宅して、憂さ晴らしに鍵盤に向かう。
だけど気持ちが不安定であればあるほど、メロディーを紡ぐ手は思うように進まない。



午後23時、外は雨。
ももはもう家に着いただろうか。
終わらせなきゃいけない作業があるから会社に残ると言っていた。
アイフォンを手に取り、連絡をしてみた。

雨降ってるけど、まだ会社?
もしよければ家まで送ろうか?

誤解を招いてしまうかもと送った後に後悔したが、返ってきたのは予想外な返事だった。

申し訳ないけど、せっかく連絡くれたので是非お願いしたいです!

頼ってくれたのが嬉しかった。
俺は速攻で支度をして会社まで車を走らせた。


「和希くん、ごめんね。ありがとう!ほんと〜に助かります!」
「全然いいよ、俺も丁度眠れなかったとこだから」


作曲活動の話、メンバーのこれから、お気に入りのカフェの新作のタルトが美味しそうだとか、他愛もない話をしている内に話題は恋愛の話へ。


「あ、そういえば俺思いつきってゆうか、気になって連絡しちゃったけど…SWAYさん的にはこれ大丈夫…?」


自分で自分の傷を抉るような質問をしてしまう。傷つくと分かっていても、気になるものは気になる。

するとももは、俯きながらゆっくりと話だした。

「あー、あのね。もうなんかみんなにバレちゃってるみたいだから、話すね」


"私達、付き合うことになったんだ"



言っちゃった、恥ずかし〜キャッキャと両手で顔を覆いながらジタバタとするもも。
彼女の幸せを願っているはずなのに、ハンマーか何か重たい鈍器で心臓のあたりを1発殴られたかのような感覚だ。


俺は笑顔で、バンパーに滴る水滴を見つめながらおめでとう、と告げた。


SWAYさん曰くメンバーに対しては信用してるからなにも心配してないし、必ずももを助けてくれるから困った時は遠慮なく頼れ。
とのことらしい。
そこまでの信用にも胸が痛んだ。


家まで送り、ありがとうと笑顔で俺に言うもも。
おう、困ったら連絡しろよ!と笑顔で言う俺。



帰り道、時刻は0自前。
自宅へと車を飛ばしながら俺は考えた。
もし俺がSWAYさんより早く気持ちを告げていたら、もっと行動に移していたら。
液晶画面に打っては消してを繰り返していた言葉を、伝えられていたら。

考え出せはキリのないことだらけだった。



失恋した。



色んな感情が入混ざって視界がぼやける。
車内に流れるバラードと更に激しく、強く打ち付ける雨。


片想いとは儚いものだと思った。
ただ、誰かから聞いて知るのではなく、彼女本人の口から告げてもらえて良かったのかもしれない。


叶わない夢だった。
毎日顔を合わす相手だ、俺もガキじゃない。
気持ちを切り替えて今まで通り同じ夢を持つ者同士熱い気持ちで一つ一つの仕事に取り組んでいる。


来春、ツアーをすることができたのも裏で今までと同じ様に支えてくれた彼女の存在があったからだ。


ももは仕事の幅を広げるために語学留学することになって、今は日本にいない。
SWAYさんとは遠距離恋愛中だ。


俺も前向きになれてはいるが、彼女のことは辛くなるから細かいことまであまり思い出したくなかった。
だけど、たまにはこうやって思い出に浸るのも悪くないのかもしれない、と思った。



イヤフォンをはずし、あの日のように熱量を増す雨音に耳を傾け、あの曲を口ずさみながら目を瞑った。


永久の夢で LOVE U DOWN…





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