非日常が日常です(完結)
1
「―――――っ」
「――来よう」
廊下を歩いていた野原は教室から話し声がするのを発見した。
どうやら自分の持っているクラスからのようだ、もう放課後なので生徒もいないと思っていたのだがと様子を見るために教室のドアをがらりと開ける。
「何やってんだー」
「あ!先生!」
「大崎?平田と、木下……」
何気なく開けた教室内に想い人である修也がいて一瞬息が止まる。
しかしよく見ると修也の様子がおかしい気もした。慌てる二人を余所に心ここにあらずと言ったところだ。
「先生!ちょっと修ちゃ、木下のこと見ててくれますか?」
「木下を?どうした気分でも悪いのか」
「いや、あー具合が悪いわけじゃなくて……」
具合が悪くなければ何なのかと首を傾げながら木下を見る。先ほどから一度も動いていないようにも見える。
「えーと、そのちょっとふざけて催眠術かけたら戻らなくなったんです。だから戻り方を調べにいきたくて」
「はあ?催眠術?」
言いにくそうにしていた大崎の代わりに答えた平田の言葉があまりに信じられなくて、野原は盛大に顔を顰めた。
催眠術なんてテレビの中のやらせくらいにしか思っていなかった。
ということはふざけて教師を騙そうとしているといったところだろうか。
「何馬鹿なこと言ってんだ、早く帰る準備しろ」
「冗談じゃないんですよ!ほら」
平田が修也のシャツを掴んでがばっと首元まで捲り上げる、しかし修也はぴくりとも動かない。
それに驚いたのは野原だ。動かない修也にはもちろんのこと、何より修也の半裸を見たことなんて今まで無かった。
思わぬ収穫に一瞬足が動くが、ここが教室だと思い直してどうにか平静を装う。
「……っそ、そうか。とにかく早く行ってきなさい」
「有難う御座いますー!いってきます」
平田と大崎がばたばたとお礼を言いながら出ていった。つまり野原は修也と二人きりだ。
他の誰も見ていないというのにもじもじしながら様子を窺いつつ修也の目の前の席に着いた。
普段間近で見られない修也をゆっくり確認する。
「やっぱ可愛いなぁ……木下」
「はい」
「えっ!?」
独り言のつもりで呟いた「木下」という言葉に反応し修也が返事をしたことに驚く。
「おぉ……呼べば返事するのか」
少し感動してもう一度呼ぶ。
「木下」
「はい」
「催眠術ってことは何か命令出来たりするのか?木下、野原先生って言ってみてくれないか」
「はい、野原先生」
修也に名前を呼ばれ、「お、おお……」と命令したにも関わらず照れてしまう。
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