非日常が日常です(完結)
9
何かを耐えた大熊が、ゆっくり息を吐いて二人を見る。
「とにかく今日はもう帰れ。木下ならちゃんと俺が送るから」
「ええっとぉ〜」
「文句あるのか?」
「ありません! 何も御座いませんさようなら!」
今このチャンスを逃せば無事に明日を迎えられない気がして、修也のことが気になりつつも大熊の元を逃げるように去った。
「うわああん! 修ちゃんごめぇん!」
「謝ったって俺しか聞いてねぇよ! とにかく逃げろ! ヤクザの目が届かないとこまで逃げろ!」
「いつの間にあいつヤクザになったんだよ!」
「とりあえず死にたくねぇだろ」
「死にたくない! また修ちゃんとイチャラブするまで死にたくない!」
「走れ!」
その日、二人は短距離の自己ベストを遙かに超えたとか。
やっと保健室に戻った頃には二十分も経っており、あの状態の修也がちゃんと大人しく待っているか不安になる。
「修也すまん! 遅れた」
扉を開け謝るが、返事は返ってこなかった。
姿が見えず中を探すと、奥にあるベッドから足が伸びているのが見える。言いつけを守ってベッドで休んでいるようだ。
そっと近づく。
先ほど大きな音を立てて入ってきてしまったが、まだ目が覚めていない修也はあどけない顔で眠っている。
「こうしてると、ほんと子どもみてぇ」
さらさら流れる髪の毛を梳いて前髪を上げる。
そのまま修也に吸い込まれるように、大熊の顔が……。
「やべぇ! あぶねぇ……本当に淫行で捕まるとこだった……」
距離がゼロになる瞬間、寸でのところで我に返る。
犯罪扱いになることももちろんだが、意識の無い修也に手を出したくない想いもあった。
実はすでに本人が知らないところで二人は繋がり済であること、しかも修也の初めてを奪っていることは悲しいながら知ることはやってこないだろう。
軽く揺すって修也を起こす。
「修也、帰るぞ」
「……ん〜あと五分」
「寝ぼけんな」
「もう朝ァ? あれ?」
「起きたか、一人で起き上がれるか?」
目を覚ました修也を気遣い背中に手を入れて起こしてやると、目を丸くした修也が見て取れた。
「どうした? 喉でも乾いたか?」
「え、何でそんな優しいの。俺いつ保健室に」
「俺? まさか戻ったのか!」
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