非日常が日常です(完結)
8
「修也は今病気、俺は教師。淫行ダメ、絶対。禁止禁止禁止」
小声でぶつぶつ自分を戒める大熊。
修也は自分の片思いの相手であるが、修也からしてみればただの幼馴染である。
近所の兄と慕う者からいきなり想いをぶつけられても、恐怖を感じる以外何も生まれない。
だから、この想いは少なくとも今伝えるべきではないものだ。
もちろん、修也が元に戻ったとしても。
「平常心平常心」
車のキーを手の中でチャラチャラ動かして気持ちをごまかしつつ、修也が待つ保健室を目指す。
その途中で、まだ残っている生徒を見つけ注意を促した。
「おい、もう用が無い生徒は下校しろ」
「うおっ! ヤ、大熊先生! いやー、その」
「何だ、何か用事か」
挙動不審な生徒たちにこちらも首を傾げるが、そういえば修也と一緒にいるところを見たことがある。
もしかしたら、修也を探しているのかもしれない。
「友だちを探してるのか?」
問えば、驚いた様子で二人ともこくこく頷いたので、「木下修也か」と繋げればさらに目を丸くさせていた。
心なしか汗を掻いているようにも見える。今日はそんなに暑くないはずだ。
「そうです! 修ちゃ、木下君を探してまして!」
「それなら大丈夫だ。二人は先に帰っておけ」
「でも、ちょっと調子悪そうだったんで心配で」
「ああ、今保健室で病院連れていこうと思って」
「びょ、びょびょ病院!」
病院の言葉を聞いた平田と大崎が盛大に焦り出す。汗は、真夏に校庭十周走らされた後のようにだらだら流れ続けている。
大熊も二人の態度がおかしさが気になりだした。
「まさか……あいつがおかしいのは、お前らの所為か?」
「ひいいいぃぃっ!」
大熊の瞳は、今まさに人をどうにかしてしまいますといった類のあれで、二人はお漏らし寸前までビビりにビビってしまう。
ここで肯定したら、本当に命が危うい。二人は必死にごまかした。
「な、何のことですか? 俺たちは風邪だったら大変だと思って探してただけで!」
「そうそう! 俺たち親友だし」
「な! クラスメイトのこと気にするの当たり前でしょう!」
動揺を感じ取った大熊が、聞こえるように舌打ちをした。一介の教師がする態度ではないが、状況が状況だけに二人は気まずさから怯えるだけだ。
――どどど、どうしよう! 沈められる? 命さようならフラグ!?
――大丈夫だ! 奴も教師! そんなこと出来るはずねぇ! ……多分。
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