非日常が日常です(完結)
7
「失礼します。大熊ですが……」
保健室に入ってみたが返事は無い。見渡すと誰もおらず、無言で頬を掻いて思案した。
「しまった。保健医も今日はいないんだったか」
生徒がほとんど残っていないため、保健室も今日はあって無いようなものだ。
せめて、修也が頭を打っていないかだけでも確認したかった大熊は、仕方なく修也を中へ招き入れる。
「ほら、こっち来い」
背中を押されて、きょろきょろ辺りを観察しながら入っていく。
見たことの無い風景に戸惑いよりも好奇心が先立っているため、瞳は先ほどからきらきら輝いている。
大熊は、休憩用に使われるベッドの一つに修也を座らせた。
「ここって志信君の高校? 今日は制服じゃないの?」
「いや、高校というか……何て言えばいいんだ」
純粋な疑問をぶつける修也に「実はお前は十七歳だ」と言ったところで、疑問が増すだけなのは目に見えている。
かといっていい説明も思い付かず無言で困っていると、すでに修也は別の何かに興味が移っていた。
「あ、このベッド真っ白! 修也のとこはねえ、青なんだよ。慎也と一緒にねんねしてるの」
「ね、ねんね……!」
「そうだよ。ここ、お昼寝するとこ?」
幼児言葉の修也に開けてはならない扉が開きかける。
いけない、こんな趣味は無かったはずだ。
気を取り直して修也の頭に手を掛ける。
「ちょっと頭触るぞ。痛いところあったら言ってくれ」
「んー」
小ぶりな可愛らしい頭を撫でてみるものの、目立ったこぶは無いし血も出ていない。頭を打ったわけではないらしくひとまず安心する。
しかし、それでは何故修也がこの状態になってしまったのだろう。
「野原先生も知らないって言ってたしな……どうするか」
困る大熊を不思議そうに見つめる修也だったが、眉を下げて大熊の袖をくいくい引っ張って言った。
「志信君どうしたの? どっか痛い? なでなでしてあげるね」
大熊の表情を見て具合が悪いと思った修也は、立ち上がり少し背伸びをして大熊の頭を撫でる。
「痛いの痛いのとんでけー、お空にとんでけー! もう大丈夫だよ!」
がらにもなくきゅんっとなった大熊は、言葉を発することも出来ず放心した顔のまま何度も頷いた。
――何だこの天使。……ついに俺もイカレちまったか。
修也が天使過ぎて、もしかして今の状況が夢なのではと思い始める。
大熊は頬を強めに引っ張ってみた。痛い。現実か。
目の前の天使にがっつきそうになるのを堪えて、何とか寸でのところで次の提案をする。
「よし、ちょっと俺と外に出るか」
「お外? いーよ!」
「じゃあ、ちょっと待ってろ」
本当は病院に行くつもりだが、幼児に「病院」は禁句だ。どれだけ騒がれるか分からない。
修也にベッドで休んでいるよう指示をして、職員室へ帰宅準備のため戻っていった。
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