非日常が日常です(完結)
6
「何やってんですか? 野原先生」
野原の野原が一瞬で「ひゅんっ」と小さくなった。むしろ、通常より縮んだ。
「え、えーとですね。これはその」
野原がどもってしまうのも無理はない。
今は修也に背中をさすられているだけであるが、つい数十秒前に致したことを見られていたら教師人生に終わりを告げることになる。
しかも、男子生徒に淫行というニュースになってしまいそうな理由で。
修也がその横で何ともない様子で首を傾げていたが、やがて思い至ったのか目の前の男を指差した。
「あ! 志信君!」
二人の目の前に現れたのは、よりにもよって大熊だった。
大熊のガタイの良さと顔面に密かに前から怯えている野原は、修也の「志信君」呼びに目を剥いて固まる。
――志信君!? このヤクザと知り合い? しかも深い仲みたいな呼び方!
単なる司書であるはずの大熊と修也がもしかしたらとんでもない関係であるかもしれないと、野原の心の内が台風になって荒れ狂った。
「あれ、お二人はどういう……」
「幼馴染です」
平然と答える大熊の胸に修也が文字通り飛び込む。
男子高校生の全体重を平気で受け止めるが、普段ではやらない修也の行動に少々違和感を感じる。
「修也、どうした? ここは学校だぞ」
頭を撫でながら問えば、きらきら輝く瞳で修也が言った。
「ここ学校なの? 何で志信君いるのー? もしかして修也、志信君の学校いるのかな」
「あ、やべ……」
さすがにおかしいことに気が付き、しばし固まった後野原の方を極悪な顔面で振り向く。
「これは……どういうことでしょうか」
「あ、はは……いやあ、僕にもさっぱり……さっき聞いたら三歳だと言っていたので、頭でも打ったのかなー……」
とりあえず修也にキスしたことはバレていないようなので、修也の状態を誤魔化しながら説明する。
「頭を打ったかも」というくだりで大熊の鋭い瞳が見開く。非常に怖い。
「ひぃっ!」思わず悲鳴を上げた野原を無視して、修也の手を取りながら大熊が立ち上がる。
「すみません、保健室へ行ってきますね」
「は、はははい!」
肯定しか選択肢の無い野原が叫ぶ勢いで返事をした。大熊は気に留めることもなく、修也と去っていく。
残されたのは、中途半端な状況で置いてけぼりをくらった教師ただ一人。
「うう……次こそは! でも、修也の唇柔らかかったなぁ」
今日の出来事をしばらくオカズにしようと考えながら、ふらふらトイレへ向かう残念教師であった。
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