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非日常が日常です(完結)
2



「それマジで?怪しくない?」

二人以外誰もいない教室に大崎の声が響く。部活終わりにすぐ引っ張ってきたのでまだユニフォームのままだ。
本の内容を平田が大崎にざっくり説明したが、やはりというか信用していない顔だ。

平田自身まだ試していないのだから冗談半分である。

「まあまあ、俺も信じてはないけどさ。もし本当だったら面白いじゃん」

ごそごそと鞄からあの黒い本を取り出して目の前に突き出せば、大崎がそれをマジマジと見る。

「それがねー、しかも催眠術って!」
「いいじゃん、意外とこういう怪しいのが本当かもしれないし」

そう、本の内容とは人に催眠術をかけるといういかにもなものだった。
「ふーん」とパラパラ興味無さそうにめくる大崎に、平田はとっておきの言葉を投げかける。これで大崎はこちら側に落ちるはずだ。

「んでさ、試しに木下にかけようと思って」

「えっ」

ほら引っかかった。

平田は心の中でほくそ笑む。

「もうここに来るように呼んであんだよ。あいつ帰りの用具当番だから俺らより遅いし、この隙に催眠術かける準備も出来るだろ」
「へ、へー修ちゃんにね」

大崎は平静を装うとしているが完全に目が泳いでいる。
本の内容を読もうともしていなかったのに、今では最後に添付されているCDに興味津々のようだ。

「んで?どうする?俺は一人でも実験してみるけど帰るか?」
「あーえーと、じゃあいるだけいよっかな。一人で帰るのつまんないし」

――そんな理由じゃないくせに。

木下に懐いている大崎であれば絶対に引っかかる自信があった。
平田はこちらの話を聞く気になった大崎に詳しい催眠術のかけ方を説明する。


1.本に添付されているCDの音を聴かせると催眠状態に陥る。一曲しか収録されておらずストップさせない限り延々と流れ続ける。

2.CDケースを開けた時に匂うアロマの香りを先に嗅いでおけば、免疫が出来催眠にかかることはない。

3.質問をすれば正直に答え嘘を吐くことはない。命令すればその通りに動く。「目を覚ませ」と言うか一時間経てば通常の状態に戻り催眠時の記憶は無くなる。

4.常態性があるわけではないので、催眠時の命令を通常の状態で再度行っても効かないが、またCDを聴かせれば何度でも催眠状態にすることが出来る。


「っと、こんな感じか。続きも書いてあったけどとりあえずこんだけ分かってれば大丈夫だと思う」
「結構本格的だな」
「な。CD開けてみるか」
「うん……」

恐る恐る開いてみると、むわっとした匂いとともにケースまで黒くて中身の見えなかったCDが姿を現した。
香水のような甘ったるい匂いに僅かに顔を顰める。

「あんま良い匂いじゃないね」
「そだな、でもこれで俺たちは大丈夫ってことだ」

平田はCDを取り出すと匂いが外へ出ないうちにケースを閉じる。CDの匂いを嗅いでみたが何故か匂いは移っておらず無臭だった。

授業で使うために常備されてある少々古めかしいCDラジカセにセットし再生ボタンを押す。
数秒の沈黙の後静かな音楽が流れだした。
どんな曲かと思ったがフィーリング音楽のような普通に売られていそうな無難な曲だ。

「こんなんで本当に効くのかなー、確かにリラックスはしそうだけど」
「俺たちはもう効かないから判断つかねーな」

二人で呻っていると、遠くからたたたっとこちらへ向かってくる足音が聞こえはっとする。
何となく無言でドアの方を見つめる。すると幾秒もしないうちにがらっと勢いよくドアが開かれた。

「ごめん遅くなって!やっと終わったよ」

呼び出していた木下で二人はほっとする。
よっぽど急いでいたのか木下もユニフォームのままだ。どきどきしながら木下の行動を見守る。
にこにこしながらこちらに来る木下は何も疑っておらず、大崎は少しだけ罪悪感がちらつくが今更引き返すことは出来ない。

「あれっ何か鳴ってない?誰かの携帯?」

「あっああ俺のかも、さんきゅ」

どきっとして平田が携帯を探す振りをしながら木下を観察していると、急にふらっとして立ち止まった。
どうしたかと俯きがちの顔を覗くと、いつも輝いている瞳は生気が失せ半開きのまま動かない口とまるで人形のようだ。

――効いた?



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