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非日常が日常です(完結)
2



「びびったぁ……」

現在慎也は自室で賢者タイムに陥っていた。

つい先ほど帰宅し、兄である修也の部屋から声が聞こえたため入ったのだが、修也が知らない男に襲われている映像が飛び込んできて殴りかかろうとした。
しかし何故かそれは一瞬で消え失せて、改めて見てみれば修也は寝ているだけでその男は修也の友人でベッドの横に座っているだけだった。
不思議な感覚に襲われながらも挨拶して廊下に出れば、何故か分身が元気いっぱいになっているわけで。

こうして慰めたというわけだ。

「あー何でだ最悪だ。修君に顔向け出来ねぇ……」

昔からそこそこお兄ちゃん子だったこともあり、思春期を迎えた今でも慎也と兄の関係は良好で、一歳差で体格差もほとんどないため部屋を行き来しては服を借りたりしている。
だから先ほどもそうしようと勝手にお邪魔したのが悪かったのか。

――それにしても妄想の修君エロかったな。

「……て、何考えてんだよ俺ェ。確かに修君は格好いいし可愛いけど、こんなこと考えてるなんてバレたら嫌われる」

うう、と呻りながら床の上をごろごろ転がる。
そうして気分転換でもしようと何気なく横を向くと、どさっと置いたままの鞄が目に留まった。

「そういや俺時間止められるじゃん」

鞄をごそごそと漁ってストップウォッチを取り出す。何の役に立つかと思っていたがさっそく出番が来そうだと慎也はそれを凝視した。



作戦を練りながらとりあえず疲れた体を癒そうとリビングへと歩けば、友人を見送ったのか玄関に立つ修也と鉢合わせになる。

「慎也おかえり、帰ってたんだ」

「しゅ、修君!ただいま」

慎也を見つけた修也が笑顔で言うが、妄想とはいえあの出来事のあとでは顔を見ることが出来ずに返事をするだけで精一杯だった。
きっと修也はおかしく思っただろうが今はもう仕方がない。
リビングではあ、と息を整えているとキッチンから「どうしたの」と母の笑い声が聞こえた。

どうしたもこうしたもない。

息子はまずい道に走りそうです、ごめんなさいお母さん。

「お母さん麦茶ある?」
「あるよ、ちょっと待ってね」

「はい」と差し出された麦茶を一気飲みする。やっと体の火照りが落ち着いたような気がした。

「今日のご飯何ー」
「サラダうどんの予定だけど、慎君はおかず足そうか?修君は今日までテストで部活無いからさっぱりしたものがいいと思ったのよ」
「あ、そっか修君今日までか。俺は昨日までだったから久々の部活できつくって、何か一品足してちょうだい」
「はいはーい」

そのあと父も帰ってきて四人で食卓を囲む。
修也は特に今日でテストが終わったからか機嫌が良さそうだ。

テレビを見たり自室でごろごろしたり時間を潰し、風呂が空いたと修也から言われて慎也も入れ違いに入る。
久しぶりの部活はいつもよりは軽いものだったが、風呂に浸かるとやはり疲れていたようで強張っていた体が緩むのを感じた。

風呂から上がった慎也は明日の準備をしていたりしたが、そういえば修也に服を借りようと思っていたことを思い出す。

「さっきは友だちいて借りられなかったからな」

念のためストップウォッチをスウェットのポケットに押し込んで隣の部屋のドアをノックした。

「修君入るよ」
「んーいいよー」

返事を聞いてドアを開けると、何故か修也が床に這いつくばっていた。

「は!どうしたの!?」

「あーいや、机の下の隙間に消しゴム転がっちゃってさ」

なるほど、気分が悪いわけではなく単純に落とした消しゴムを探しているだけらしい。

「その隙間って指入らないんじゃねぇ?」
「だから定規突っ込んで探してんだけど……んー無いな」
「奥に入ったのかね」

――突っ込むとか奥とかヤラシー単語だな。……っつか修君のこの体制!

思春期よろしく何気ない単語に反応した慎也が、ふと見下ろしていた修也の体制が前に友人宅で見たAV女優の体制に似ていることに気が付き顔を真っ赤にする。
どんなに体格が良かろうが言葉遣いが悪かろうが(お兄ちゃん子なので修也に対しては悪くない)、慎也はまだ高校に上がったばかりの十五歳の童貞少年なのだ。

ごくっと喉を鳴らした慎也はストップウォッチに手を伸ばしボタンを一度押した。



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あきゅろす。
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