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非日常が日常です(完結)
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「木下、ストップウォッチ持ってきてくれ」
「うっス」

顧問に言われて慎也は体育倉庫へと向かう。
中に入りストップウォッチなどの小物が入っているはずのかごを目指して歩くが、ふと跳び箱の上にストップウォッチが一つ置きっぱなしになっているのを見つけた。

「誰だよ片付けなかった奴」

でもまあいいかとそれを持って顧問の元へと戻った。

「せんせー持ってきました!」
「サンキュー、じゃあ木下も皆のところ戻って」

顧問の言葉に慎也が走り出すが、一歩出たところですぐに「あれ?」という声が聞こえてきた。
振り向けば顧問が首を傾げながらストップウォッチを眺めている。

「どうしたんですか?」
「ああ、持ってきてもらって悪いんだがスイッチ入れても数字が動かないんだよなぁ。もう一回押しても変わらなかったから壊れてるみたいだ」
「はあ」
「悪いが、これは捨てて新しいやつ持ってきてくれないか。処分の連絡は俺からしとくから」
「分かりました」

ストップウォッチを受け取りまた同じ道を戻る。
なるほど、あそこに置きっぱなしにしていたのはきっと捨てようと思っていたのを忘れてそのままになっていたのだろう。
今度こそ小物が置いてあるかごからストップウォッチを取り出して倉庫からグラウンドへ向かって歩き出した。

それにしても見た目は新品のように綺麗なのに本当に壊れているのだろうか?疑問に思った慎也は一度スイッチを押す。

確かに表示される数字はゼロからぴくりともしない。

「なーんだやっぱ壊れてる」

つまらなさそうに呟いたあと、グラウンドの端にあるゴミ捨て場にでも捨てようと顔を上げた慎也は、あるはずのない光景に目を丸くした。

「え、え?あれ?」

慎也が所属している陸上部の面々はもちろん、その横で部活をしている野球部も、全員が全員動きを止めているのだ。
走り出そうとした先輩は足を上げた状態で、フライをキャッチしようとしている野球部員は上を向いて手を広げた状態で。

まるで時が止まったような。

そう、そうなのだ。フライになったはずの野球の球すら宙に浮いたまま止まっていた。

慎也は混乱する。
これが時が止まっているということにする、だが何故自分だけ動いているのだろうか。

「何で?夢?俺今何してたっけ」

気持ちを落ち着けようと今していた行動を必死に思い出す。
顧問に言われてストップウォッチを取りに行って戻るところで、それで壊れたストップウォッチを――。

はっと手の中にあるストップウォッチに視線を落とす。

「これ、か……?」

恐る恐るといった様子でもう一度ボタンを押すと、今までが嘘だったかのように静寂が破られ時が動き出した。

限界まで目を見開いてその光景を凝視する。
これはもしかしなくてもとんでもないものを手に入れたのではないだろうか。

おそらく顧問はストップウォッチだけを見たままボタンを二度押したので、時が止まったことに気が付かなかったのだ。

それが今自分の手に、そして処分することになっているそれはこのまま持ち帰っても支障が無いわけで。

「やべー……何これすげぇ」

興奮した息を吐いて慎也はもう一度ボタンを押した。

ぴたり、と止まる世界。

せっかくなので何かしようと思うがなかなか思い付かない。
こんな時漫画なら好きな子のところへ行くのだろうが、そんな子はいないというかここは男子校だ。
身近なところでと思っても兄の修也は他校だし、さすがに今校外にまで出る気は無い。

「うーん、じゃあベタだけどこれでいくか」

仕方ないとそろそろ動き出した慎也は、顧問の前に立つとおもむろに下着ごとジャージを下にすとんと脱がせた。

「うわ、くっろ!毛も多いしグロイな……」

顧問の下を確認して顔を顰めたが、これで開き直ったのか部員たちのユニフォームも次々に下ろしていった。

初めて見る仲間の生の姿が滑稽で慎也は笑ってしまう。

「何これめっちゃウケる!皆して下半身丸出しとか」

ひとしきり笑ったあとせっかくなのでその様子を数枚写真に収める。最後にまたユニフォームをを元に戻せば完了だ。
もう一度ボタンを押してストップウォッチを自分の鞄に入れると、慎也は何食わぬ顔で戻った。

「せんせー持ってきました」

「おお、二回もごめんな」



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あきゅろす。
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