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非日常が日常です(完結)
2



用を足したあと部屋に戻らず平田は何故かリビングへと向かった。そこには木下の母親がいる。
リビングのドアを開ける前にプレイヤーを少々大き目に流した。
これならリビングの中にいても少しは聴こえるだろうと身をひそめていると、ドアの隙間から見える母親の動きが止まるのが確認出来た。

「木下のお母さん、今から手を叩くと意識が戻るので普段の通りの行動をしてください。でも、リビングの外から”どんな音や声”が聞こえても全く気になりません」

「はい」

虚ろな瞳で母親は返事をした。
これで部屋の中で何をしても一時間は邪魔が入らない。平田は口角を上げてぱんっと手を叩いて廊下へと出た。

平田は満足そうに笑うと、洗面所からバスタオルとフェイスタオルを一枚ずつ拝借して木下の待つ部屋へと戻る。


「おかえりー、遅かっ……」

ドアが開いたのに気付いて漫画を読んでいた木下が顔を上げて話し掛けるが、最後まで言葉が続くことなく手にしていた漫画が床に滑り落ちる。
プレイヤーをそのままにしていたので、音が聴こえた木下にも催眠がかかったのだ。

「うは、やっぱこいつかかりやすい。何か可愛いな」

力の抜けた人形のような木下の頬を撫でる。この顔も見慣れ、これも自分がさせている顔かと思うと途端に愛らしさを感じてしまう。

ごくっと喉が鳴る。

誰もいないのにきょろきょろと辺りを確認してからそろりと木下の唇に己のそれで触れてみた。
ちゅぷ、とすぐに離れる。

「うお、やわらけ……」

平田は一度だけナンパで知り合った年上の女と経験はあった。
しかし焦ってあっという間の出来事で、覚えているのはゴムを付けるのに苦労したくらいでキスをしていないことに気が付いたのも別れたあとだったという苦い経験だ。

なので、キスはこれが初めてなのだ。

初めてが男となんてどうかとも思ったが、いつかの練習になるだろうし木下ならいいかとすでに感覚が鈍っているというのもあった。

「これはこれでいいけど、今回はせっかくだから」

平田は木下から離れるとベッドにバスタオルを敷き始める。
そしてそこに寝るように木下へ命令をした。仰向けに寝たのを確認してタオルを横に置く。

「木下、手を叩いたら意識が戻るが、お前は俺に力で敵わない。分かったか」
「はい」
「よし」

ぱん、と叩くと木下の瞳に光が戻った。いきなりベッドに寝ている状態で、さらには目の前に平田がいるので状況が掴めていないようだ。

「え?あれ?平田いつ戻ってきたんだっけ」
「別にいいじゃんか、それより抵抗しなくていいのか?」
「抵抗?何のこと……!」

平田に言われて視線を自分の体に移すと何故かシャツのボタンが全て外されている。驚いて手を動かそうとするが平田が押さえつけていてどうにもならなかった。
さあ、と顔から血の気が引いていく。

「ひら、た?冗談……」

「冗談じゃねぇんだよな、これが」

にい、と目を細めて笑う平田が怖くて木下は暴れるが、何故か逃げることが出来ずに両手をタオルで縛られベッドヘッドに固定されてしまう。

――力が入らない……!

催眠のせいとは知らない木下は、力が思うように入らないことに焦りが募る。
恐怖で僅かに涙が溜まった目尻を平田がぺろりと舐めた。

「暴れて舌噛んだら大変だから口縛ってやるな」

優しいだろうとでも言うかのようにかたかた震える木下の口を自分のネクタイで二重に縛る。

「口全体は覆ってないからちょっとは喋れるだろ」
「ひらた……こあいぃ……」
「ああ、口閉じられないからそんな喋り方になんのか。かわいー」

いっそう笑みを深めた平田に木下はぞっとする。
いつの間にこんなことになったのだろうか、つい先ほどまで普通に遊んでいたはずなのに。



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