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ローヴェルの猟犬
1ー3 崩壊と愉しげに笑む道化

 一帯へと巨大な鎌が突き立てられるが、そこには既に俺達は居らず、各々が分散。俺とイサナが左右に別れ相手に接近、レインとクロストが飛び退き銃を構える。
 早速後衛から異質な音、大口径レーザーによる砲撃の音と銃声が響き渡り、前衛である俺とイサナが合わせて足を弾き疾駆、一気に距離を詰める。直進する俺の進路を予測して狙いに来たアルケオスの生物的な白き鎌は溶け掛かりながらも振り下ろされ、しかし俺に触れる前に根本から破砕、レインの後方射撃により防がれ力無く自身の左の空間を貫き動きを止める。
 だが鎌はそれだけではなく幾らでもある。視認、真上から降り下ろされる鎌を右に転がり回避するがそれを予測した鎌が更に落ちしかし左へ転がり回避と同時に畳んだ片足を一気に伸ばし弾き前へ飛び出す。コンマ数秒前の自身は恐らくは三本の鎌に縫い止められ死んでいただろうが、そんなミスは起こしはしない。イサナもクロストの後方射撃により更に接近、槍に紡いでいた光を向ける。俺は駆け、予測通り後ろ……二度目に転がった場所へ鎌が突き立てられる音が響くのが聞こえ、その時には既に攻撃圏内に居た。

 振り抜いた剣。その幾つもの目玉へと翡翠の軌跡が斜めに残され、更にそこへイサナの特大の氷の矢がアルケオスの後方まで貫通。俺達が飛び退いた次の瞬間に噴出する紫の液体と奇声、機能停止しない理由は、コアを完全に破壊出来てはいないからであろう。矢が貫通したが、そこにはコアは無かったのだ。目をやられ暴れ出す様に闇雲に鎌を振るうがその場所から飛び退いていた為に虚しく空を斬るだけ。無駄だ。
 そして地面に勢い良く叩き付けられる鎌、その場所から俺とイサナが飛び退き──

「即席フォーメーションα発動っと」

──蒼き光の奔流がその鎌ごと敵の巨体を飲み込み、真後ろのビルを光に巻き込み崩壊、破壊し粉砕し塵へと変える。クロストの溜めていたグラドニカルのエネルギーを、完全解放。アルケオスの正面でトリガーを引き切ったのだ。ついでに言うと、俺達にフォーメーション等存在しない。だからと言って戦略も何も無いわけではないから誰も巻き込まれないのだが。
 光の帯は次第に収縮し一本の線となり消え、そこに居たのは強靭な鎌や外郭、骨格のみを残したアルケオスだった。目玉の中は白濁し蠢き、肉は骨格に纏わり付く様にぶら下がり沸騰していた。だがそれも、表面に直ぐ様中央辺りから紫の血管が這い伸びそこから何らかの養分が分泌されているのか、逆再生するかの様に……そしてまた、新たな生命構成するかの様に肉が膨れ上がり全ての鎌の表面を覆い尽くそうとする、が。

「α……って、βとγとか今から作る気とかありませんよね。クロスト、戦略派じゃないし」

 その骨格が根本から砕け落ちる。クロストの横から響き渡った高速連射された銃弾の悲鳴と共に肉が紫の飛沫を上げて吹き飛び、鎌を一定間隔で撃ち抜き間接を砕き抜き腕を穿ち風穴を空け、幾つもあった鎌は全て壊れ落ちていた。レインの狙撃精度は化け物級だが、それでもクロストには追い付かないというのだから理解が及ばない。既に次元が違う。そんな事を思っている途中、そこで気付いたのはイサナが駆けていた事。思考に浸っている場合では無かったのだ。
 アルケオスが即席で作り出した巨大な蜘蛛の脚先に生えた鉤爪は駆けるイサナには当たらず、突っ走る。瞬時に予測し左右へ体を反らし、槍で軌道を変え更に直進。
 種族の名は一切、伊達ではなかった。コヨーテと呼ばれるその種、身体の造りからして根本的に他の種とも違う、俺達の中で唯一の猟犬としての血統を持つイサナは身体能力に関しては恐らくこの国でもトップクラスには入るだろう。ただ、まだこの業界に入っての年数は薄い為に技術面は明らかにクロストとレインには劣っていて。つまり最弱は全てにおいて劣っている俺という結論に達するのが残念でならない。
 緑の光が軌跡を残し、その光は瞬時に距離を詰め復活し始めたアルケオスの眼が見付けたのは……その複眼の中央へと突き立てられる、ランス。

「今日は苛々してるんだ。取り敢えず、いい加減散れ」

 確か、今日は麻婆豆腐を食っている途中に呼び出されたらしいイサナは眼を細めていかにも不満のオーラ浮かび上がらせたまま、その不満全て打ち付ける様に勢い良く槍を突き刺す。加速、地を弾いた脚力から腰の捻り右腕の筋力の全てが巨槍・ヴィルグナの先の一点へと注がれアルケオスの中央へと深く沈み行く。そして、槍に二本の亀裂が入り、解放。上下に展開されその隙間から緑の光が零れる。
 刹那、死の奔流がその先から紡がれ、放たれる。内からの絶対零度の破壊に、その目玉は一斉に白く凍結、分子レベルでの振動を停止させる死の息吹は接地点を白き粉とする。全ての生物の壊死する直撃を受け続け中心から粉へと分解していく。が、

「奴の後方で構成ッ!下がれイサナッ!」

 クロストの叫びと同時にその崩れ掛けた冷気の煙立たす骨格を蹴り飛ばし飛び退くイサナに、そのアルケオスの巨体の後ろで多量に構成された管、無数の細長い蛇が崩れた白き混沌を回り込み襲い掛かる。それへ向けて巨槍の二発目を放とうとするも、二度の使用に残量は無く不発、更に後ろへと跳ねるがうねり動き高速で迫る幾本もの蛇の群れ。後ろからのレインの銃声と共に何匹かの蛇が散り千切れ吹き飛び飛沫を舞わせるが、追い付かない。グラドニカルでは範囲が広過ぎ、巻き添えてしまう。そのまま為す術無く蛇の群れはイサナの一点に殺到し──

「俺の斬首台にようこそっ……と!」

──切断。蛇の頭部が巨大な刃により綺麗に束なったまま切り裂かれ、白い肉と紫の血が巨大な鉛色の板に衝突していた。
 俺が長剣ルラクレスを腰にぶら下げて、代わりにと事前に構成していたカトラス兵器……バルグロスは、2mを越える巨大な片刃の剣。長く強靭な柄と鉄の板の様な剣身を持ち、返しの付いた相応に巨大な緑色に光を帯びる刃は微細な震動と熱を付加し、対象をいとも容易く切断する。イサナへの一点へ襲撃を仕掛けたそこを狙い降り下ろされた片刃巨剣は、そのまま地面に剣先突き刺さり綺麗に蛇の頭部を断ち体の衝撃を無とした。紫の返り血に表情しかめながらも横目を向ける。

「貸しは、ナシだろ?」

「もう一つのカトラスも壊れてたから、詰みだった」

 どうやら、最初に扱っていたカトラス兵器の薙刀、夜霧Nー5型が故障したらしい。レイフェル社やメギドアームズ社の特注品でもない量産品であるから、当然の事かと思った。というか、言う事が違うであろうと。

「礼を言えよ礼を」

 最終的に相手の発言に対し突っ込んでおき、バルグロスの背に備わったシリンダを取り換える。全てを両断する刃を持つが、その発動時間は30秒。膨大なエネルギーを消費するバルグロスの専用シリンダ一つの値段で、据え置きゲーム機二つ買える程なので、何とも苦しい思いをする剣だが……命には変えられない。

「というか、ボクの作った隙を生かしてよ」

「そ、いつは……だな」

 自身から見れば、イサナの攻撃は成功したが他の面からの反撃に対応出来ず俺の手を借りねばならなかったという結果。助けられたくせに何が隙だと言ってやりたい所だが……全くその通りなイサナの呟きに、溜め息一つ残して地を弾き一気に駆け──大穴空けられた白き混沌が横たわる目の前まで、距離を詰める。次々に自身を守る為の腕を生み出すもレインの狙撃の前に散り、出力調整したクロストのレーザーに焼かれ一瞬で消え去る。活路を開かれ、更に加速、加速し駆け抜け支援出来ぬ至近距離からの構成された鉤爪持つ腕を体を逸らし回避し腰に吊るしたままの長剣ルラクレスで引き抜き様に断ち切りながら、目前へと迫り……ルラクレスを手放し、巨剣バルグロスの柄を両手で持ちトリガーを引き切りながら、再生しつつある大穴を捉え……正確には、その奥に見えた赤を捉え、刹那駆け巡る思考──

「……食、ッッらぁいやがれぇええええ!」

──翡翠の残光残した一閃が薙ぎ振るわれ、水に勢い良く物質が叩き付けられたかの様な音が響き渡り耳に残った。右下から、左上へと翠の軌跡残した斬撃は……アルケオスの全ての動きを停止させていた。

 静寂。そして、僅かにその斬撃の跡を境界線とし傾き……振り上げられていた幾つもの鎌が萎れた木の様に地響き立てて倒れていく。

「……クソがっ……」

 シリンダを使い果たしたバルグロスが光を失い、同時に具現化解除。先端から粒子化し赤いホログラムの枠組みだけが残され、それも消える。ただの機械の棒となったカトラスを腰のホルスターへと納め、足元に落ちていたルラクレスを拾い数歩歩き出す。

「ロッド」

 クロストの声。解っている。

「……俺が殺す」

 俺は足を止める。赤い赤い中心の核は、亀裂が入り斜めに裂かれ半壊している。それでも恒常的に再生が続けられるが間に合わず肉体は蠢き崩壊を繰り返し泡立ち波打つ。放置して壊れるのも時間の問題だが、先程の様にまた他のアルケオスが現れても問題だ。だからこそ、そして自身の為に。
 あの時、あの殺しに掛かる時に感じた不快感は未だ大きな靄となり内に残っている。怒りなのか憎しみなのか、哀しみなのかもう解らない。殺して、殺して殺して殺して……そうして晴れるのかも解らない。そんな想いを抱えたまま……白い肉塊を踏み潰す。

「……死に腐りやがれっ」

 俺は剣を振り上げ、その真下の赤い赤い、中枢、核へと、

「アー君?」

 掛けられた言葉。真っ白なその姿は目の前に、あった。真っ白の猫族で、青いリボンを付けた……その、猫族が。

「………カル、フィ、ッ…え?…ぁ…」

 声が漏れた。そして、相手に、赤い斑点が散る。それが、自身の口から溢れた血であると気付き…鈍い違和感に視線を下ろす。その白猫の腹から、紫色の血管浮き出た鋭い鎌が、自身の腹を深く突き刺し、背を貫通し突き抜けていた。

「ロッドッ!」

 後ろから掛かる声が遠い。足に力が入らない。崩れ落ちるがその貫いた鎌に引っ掛かり、糸の切れ壊れた操り人形の様に身体が傾く。眼窩に目の無い、形だけの…その、求めていたモノに震える手を伸ばす。
 だがそれは弾丸とレーザーにより一瞬で散り、巨槍が突き立てられ赤い欠片が弾ける。

 全ての音が遠い。痛い、痛いがそれも薄れる。薄れる。視界もなにも、声も。目の前に何かが覆う。

 この色は誰だっただろう。もう解らない。白?いや、黒?

 ぼやけた輪郭が霞み、更に薄れ、全ての感覚が消え、

 意識を、手放した。


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