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ここにいる君へ
夕焼け空と世界の終わりA

「僕がこんな話しを始めたのはね、君が僕と似通っていると思ったからさ。あぁ、もちろん。君が自分を大好きなナルシストだと言っている訳ではないよ?むしろその逆だ。かく言う僕もまた、極端な自己愛者という訳でもないのだけれどね」
「えぇ、と…」
「以上を踏まえた上で嘘をつかず、ごまかしもせず、答えて欲しいんだ。君にとって…いや、違うな。君は、」

先輩は胡散臭い笑顔を少し困ったような笑顔に変えて、言葉を続けた。



「君は、他人にとってどんな存在でありたい?」




その質問に、先輩はなんと答えて欲しいんだろう?
先輩の答えと、私の答えは、到底似通っているとは思えない。
そもそも先輩は、こんな質問に答えなくとも私の答えを知っているのだ。
超能力とか、なんかそういう変な力で。
私の事なんかいつだってお見通しなのだ。
先輩への嘘はいつもバレる。

「私は…」

だったらごまかしたって仕方ない。
先輩にとってただの暇つぶしのくだらない質問だ。

「わ、私は、居ても居なくても、ぜんぜん変わらない存在がいい」
「ふふふ。それから?」
「そうじゃ、なかったら、殺したいくらい憎まれる存在がいいですぅ」
「何故?」
「だって、いつか…いつか私が死んだ時、私なんかの為に泣く人がいるのはぁイヤだから?」
「可哀相?」
「……はい」
「どーせ死ぬなら誰かが泣くより、誰かが笑った方がいい。その方が死んだ甲斐がある?」
「……………はぃ」
「ふふふ。やっぱり僕達は似ているね。まったく真逆ではあるけれど…」

ふぅわり、と。
膝丈のスカートをはためかせ、夕陽先輩は嬉しそうに笑う。

「普通の人間はね、誰でもいいから必要とされたいのさ。自分を求めて欲しい。愛して欲しい。なくてはならない程、必要として欲しい。自分が死んだら泣いて欲しい。死してなお、誰かの記憶に残りたい。忘れられない傷でもいい」
「………」
「いなくなったら、心にポッカリ穴が空く程…自分の存在を刻み付けたい」

日の沈み始めた朱い町並みは、静かに終に向かっているようで。
そんな景色を眺めながら笑う先輩は、恐ろしいほど儚く見えた。

「だけど君も僕も、他人を必要としていない」
「………」
「他人に必要とされる事を求めていない」
「………」


2、3歩先を歩いてから振り返った先輩はさっきとは打って変わって悪戯っ子のような顔をしていた。

「ふふふ。君の願いは残念だけど叶わないよ」

意地悪そうに、愉しそうに、

「そして僕の願いもね」

笑う。

「…………」

わかっているのだ。本当は。
私が死ねば泣く人がいる。
今、私を必要としている人もいる。
それでも死に向かいたい気持ちがある。
だけど生きていたくもあって。
死んでしまいたくない気持ちもあって。

「知っていますよぉ、そんなこと」

どうして不幸と幸福は同じように来るのだろう。
楽しいことだけなら、こんな暗い気持ちは抱かなかったのに。
悲しいことだけなら、全部諦められたのに。

私は、自分で自分は殺せない。



「負けるなよ」



そう言った先輩の笑顔と一緒に視界に入るのは、私の家。
ふふふと笑って私の頭を撫でる先輩は、やっぱり私の事をお見通しなのだ。
家が嫌いだなんて、言ったことないのに。



「…負けないよ」



先輩がいなくったのは、それからしばらくたってからの事だった。



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驚くような事じゃないけど。

 

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