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ここにいる君へ
夕焼け空と世界の終わり
side:雛子





「君は他人にとってどんな存在でありたい?」

夕暮れ時の帰り道。
部活が終わって家路につくこの時間が、私は一番嫌いだったりする。

「他人にとってぇ?」

それは帰る方向が同じだと言う偶然で、隣を歩く部活の先輩が嫌いだからとかそんな理由ではなく。
“家に向かう”という当たり前のように毎日繰り返されるその行動がイヤなのだ。

しかし一風変わった先輩と二人で話しながら歩くこの時間は、私の一番お気に入りの時間でもある。
矛盾としか言いようがない。

簡単に言うと、私は家が嫌いで、先輩が好きなのだ。

「夕日先輩はぁどうなんですかぁ?」
「僕かい?」
「はい」

瀬野夕日先輩。
艶やかな漆黒の髪を肩の辺りで揃えて、風になびかせている。
自分のことを“僕”なんて言うし、変わった喋り方をするし、笑顔はメチャクチャ胡散臭い。
そのうえ超能力のように他人の心や過去が解る。
一体先輩の頭はどんな構造になっているのか。

そんな風変わりな先輩は、あまり友達がいないらしい。
もっとも、話しを聞く限りそんな些細な事を気にする人ではないようだけど。

「僕が求めているのは畏怖だね。純然たる恐怖さ」
「きょーふぅ?」
「…君が言うと豆腐か何かの種類みたいだね」

先輩の事を変な喋り方とか表現しておいて何だけど、私も結構舌っ足らずらしい。
頭の中ではちゃんと喋ってるつもりだけど、口にしようとすると途端に何を喋っていいかわからなくなったりする。
そのせいなのか、理路整然と物事をまとめて話すなんて芸当は私にとって酷く難しいのだ。
舌っ足らずな話し方で、どもりながら喋る私は、傍目から見て苛々しないかと不安になるけど…

「ふふふ。僕はね、全ての人間にとまでは行かないまでも大多数の人間に距離を置いて欲しいんだよ。一線を引くってヤツだね」

先輩はまったく気にした様子もなく、上機嫌で喋る。

「恐怖は距離を置くには最適な感情だし、人を動かすにしても便利な物さ。大多数と言ったけどね、本当はそれが全人類であったとしても困らないんだよ。僕は世界に僕が存在していれば満足だから。瀬野夕陽を必要とする人間は瀬野夕陽一人居ればそれでいいんだ。ふふふ、これも可笑しな話しだけどね」

「………」
 

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