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短編集
レール
ある者はすでに敷かれたレールを歩くことしかできない。
ある者は指示されるがままにレールを敷くことしかできない。
ある者はレールを歩く者の機嫌をとるために指示することしかできない。
レールの行き先を操っている者などいない。

警備員のディランは金持ちの家で一日中立っている仕事をしていた。ディランはこの仕事が好きだった。ディランは仕事場から丘を眺めるのが好きだったし、自慢の体力を仕事で生かすことができて幸せだとさえ思っていた。
だから王様の命令で転勤を命じられたときは、苦い薬を無理やり飲まされるような気分だった。
嫌だなと思いつつも王様の命令には逆らえない。なにしろこの国のほとんどの者が王様ナスターチを敬愛しているのだから。王様に逆らえば嫌われる。

ナスターチは戦争が嫌いなことで有名で、多くの国民から支持されていた。最近では絞首刑の廃止をし、哀れな囚人たちを悲しい運命から救った。
死刑を免れた囚人たちは、西の村にある大きな農場で働くことになった。
ディランの上司のはなしでは、囚人たちを束ねる優秀な人物が要りようになり、体力のあるディランが選ばれたのだそうだ。
ディランはちっとも嬉しくなかった。体力仕事が嫌いな上司たちが面倒くさい仕事を部下に押し付けてきただけなのだと知っていた。

戦争をなくしたって、絞首刑をなくしたって、世の中は強い者が弱い者に命令を下して成り立っている。
ディランに命令を下した上司にも上司がいて、その上司たちも金持ちの客に媚びっている。

ナスターチにも上司はいるのだろうか。
ディランは丘の上にそびえ立つ巨大な宮殿を眺めた。
見なれない馬が珍しい装飾の馬車を引いて宮殿に入っていく。
ナスターチに上司がいようがいまいが、ディランが警備の仕事から離れるのは決定事項だった。

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