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短編集
コドクが消えた理由
ある日、突然コドクが姿を消した。
ヨク坊はすぐに町中の猫に命令を出しコドクを探させた。
町は悲しみに包まれた。

ヨク坊はこの近所に住む猫のなかでは女王のような存在だった。
ヨク坊は屋根の上に寝そべり、メス猫のコドクと戯れるのが好きだった。
ヨク坊はこのコドクという猫がたいそう気に入っていた。
コドクは頭の回転が早い猫で、彼女といると誰もが幸せな気分になれた。コドクの周りにはいつもたくさんの友人が集まってきた。
コドクは鳥と仲良くする癖のある変わった猫だった。
珍しい趣味を笑う猫たちもいたが、鳥と遊んでなにが悪いとヨク坊は思っていから、コドクのことを人一倍かわいがった。

一週間後、隣の村で発見されたコドクは町へ連れ戻された。
コドクを囲んだ面々が「心配したんだから」と怒ったり笑ったり泣いたりしている。
感動の渦の中心にいるコドクは無表情だ。コドクが冷たい一言を放つ。
「私の気持ちが分からない人たちに心配されても嬉しくない」

それを聞いた猫たちは唖然とした。
コドクはコドクではなくなっていた。
コドクなら、急に消えたことを謝り「心配してくれてありがとう」とみんなに感謝をするはずだ。コドクなら、自分がいない間にどれほど悲しい思いをしていたのか、熱心に耳を傾けてくれるはずだ。
それなのにコドクは冷たい。

ヨク坊は我慢できず「ニャー」と低い声で激しく鳴いた。

コドクは女王の態度にひるむことなく、無表情で語りはじめる。
「みんなは私の態度を不満に思っているのね。急に私がいなくなって寂しかった気持ちを慰めてもらいたいのでしょう。でもね、私、あなたたちにもう優しくするつもりはないの。私はあなたたちと接することに疲れて嫌になってしまったの。だってあなたたちは自分の気持ちを語るのに夢中で、誰も私のことには関心をもってくれないんですもの」

「そんなことはない。みんなコドクのことが大好きなんだよ」
ヨク坊がなだめるように答えた。他の猫たちも次々にコドクへの愛を口にした。

しかし、コドクの表情はますます落胆していく。
「もうそれ以上聞きたくないわ」
コドクはみんなを黙らせた。
「私はみんなの気持ちなんてもう知りたくないの。ねぇ、どうして、誰も私の気持ちを聞いてくれないのよ」
コドクはそう叫ぶと足早に去っていった。二度と姿を現さなかった。

ヨク坊はときどき考える。
もしもあのとき誰かが「どうして急にいなくなったの」「今までどこに行っていたの」とコドクに関心を示していたら、コドクはまた屋根の上に登って今日もみんなと戯れていたかもしれない。
ヨク坊は鳥と遊ぶコドクの姿を思い浮かべた。
そういえば、なぜコドクが鳥と仲良しなのか、ヨク坊は聞いたことも考えたこともなかった。

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