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白と青と黄色のもろもろ
交差16

逃げようと思えば逃げられる

雪村を連れて早く脱出しよう

痛みのためか冷や汗がなかなか引かない


歩けないわけじゃない

走れないわけでもない


肩の痛みは先ほどに比べれば軽くなっているし、体を動かすには問題なかった



この色黒は強い

加えられた痛みから、恐怖と怒りが込み上げる



キョトンとした顔を向けて、目が合えばニッコリ笑う

間の抜けた雰囲気で油断させているつもりか?


俺が動けないのは恐怖のためじゃない

俺は動けないんじゃない



「・・アイツと話がしたい」
「紳さんと?」

首を傾けてゆっくり返事をする


「・・アイツが言った事は本当だし、俺も同じ記憶がある


腹違いの兄弟ってやつ?
こんな所でご対面なんてろくな血筋じゃないな」

粗い息を整えて色黒とその奥の扉の間合いをはかる




色黒さえいなければアイツに一発くらいは当てられるかもしれない



だけど色黒はのんびりした顔のまま扉に向かう隙をみせない


「・・・兄弟?」
ふ〜ん・・間延びした返事の中にうっすらと興味を引かれたようなニュアンスを漂わす



「馬場っ・・」
雪村が傍らで俺の名前を呼んでいたが、それどころではなかった


「・・お互いの存在を消していたのに偶然ってのはこんなもんだ


あんたも知ってるだろ?
アイツは渋谷の大事な跡取り
将来が約束されている

片や俺はアクシデント、父親から認知もされていないイカレタ女の腹から出てきたガキだ

・・こんな所で男とやってるなんて知られたら、大事な名前に傷が付くんじゃねぇの?」

色黒は少し目を見開いて、それから嬉しそうに笑った

「・・やだ!?脅してんの?おっかないネ
この部屋、何に使うか知ってるんだ〜
ふ〜ん
お互い様なのにね」


色黒は雪村に笑いかける

引き攣る雪村

「・・無くすもんが違うだろ」

「そうでもないよ?
俺達はコレカラだもん

このまま帰る事だって出来る

俺は不満だけどっ

でも君達は・・ね?」


余裕シャクシャクに笑いかけられる


奥の扉は閉められたまま、こちらの気配を伺う様子もない


今更じゃないか

そうだ

今更だ

体の体温が下がっていくのを感じる



「・・ハァ・・」


「まぁ、色々複雑なんだろうね」
相変わらずのんびりした口調



俺の存在がウザくても半分は血が綱がってんだ

汚い俺はアイツの弟

嫌でも判らせてやりてぇ

お前の半分は俺と同じだってな」

「・・何にも知らないくせに」




色黒はフイと顔を逸らした
「それは当然だし、当たり前だろ

・・・あのね、慎さんが君の事覚えてたのって奇跡に近い事なんだよ

何も知らないのはお互い様
もう行って
俺達リハビリ中だから」」


「・・・」


こんな所に来て何がリハビリだ

ふざけた事を平気な顔で言う


無理矢理でも引きずり出して鼻っ柱が折れた顔を眺めてやりたい


「あんまりしつこいと嫌われるよ・・ね?

お友達もそう思うよね?」


譲る気のない色黒が雪村を見る


雪村は心底泣きそうな面をしていた











結局、俺は雪村を連れて店を出た


行きと違い帰りの足どりは重かった

同じようにのしかかるように広がっていた雲から雨が降ってきた


「・・タクシー拾うからお前帰れよ」

雪村は首を振る


仕方なしに濡れたまま雪村の家に向かう

酷く疲れていたし、アルコールがまだ抜けていないためか頭が回らない



交わす言葉も少なく、雪村は俺の事を気にしながら隣を歩いた


申し訳無さを感じながらも、一人でない事に救われていた



「・・じゃあな、今日は悪かったな」

玄関の鍵を開けた雪村が振り返る


「・・このままじゃ風邪引くぞ?
少し休んでけよ」


扉を開けると真っ暗な空間が広がる

そっか・・親父さん居ないんだった



寮に帰っても新垣に根掘り葉掘り説明を求められそうだ


面倒臭い

ゆっくり休みたい


俺は雪村の後に続いた





雪村が準備してくれた風呂に入る
体からやっと力が抜けていった

「着替えと、あと湿布」

「ああ、悪いな」

腰にタオルだけ巻いてでると丁度雪村が入ってきた所だった

「湿布はろうか」

「おぅ、よろしく」


洗面台の鏡に俺の背中に釘付けになった雪村が映る


「・・・漫画みたいだろ?」

雪村はハッとして申し訳なさそうに視線を逸らす
「ごめん・・」

大概の反応


クスッと笑ってしまう


なんで謝るかな




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あきゅろす。
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