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白と青と黄色のもろもろ
交差13


『STAFF ONLY』
と書かれた扉を開けて細い通路を進むと、先ほどの女の子二人組と、従業員らしい男がいた


従業員は黒い制服を着崩して金髪の髪の毛先をやたらに触る



馬場と何やら話して奥へ案内する


小さな扉が並んだ細い通路

その一つに通される


小さな部屋にデカイソファーが一つ

ソファーの前には大きな鏡
奥の扉から簡易シャワーが見える


隅のテーブルにはボックスティッシュ


「・・・」

初めて入る部屋だが、そこが何の為に使われるのかは直ぐに理解した



∞馬場サイド


顔を真っ赤にして立ちすくむ雪村を一人の女の子が誘導して部屋の扉を閉める


一瞬助けを求めるような視線を向けた雪村に満面の笑顔を向ける


扉は閉まり中から鍵が閉められた







「お前はコッチ」
金髪の痛んだ毛先を指先で弄びながら五郎は更に奥に案内する


「・・俺はいいや、なぁ、お前五郎なんてどう?」


残った女に声をかける

顔見知りらしく、二人は目を合わせるとプッと笑った

「・・まぁ、いいけど?でも五郎ちゃんじゃ新鮮味に欠けるってゆうかぁ・・」

「そりゃあ、お互い様だにっ
最近お疲れモードなりっ」

何だかんだ言いながら女から先に入っていく


「・・ちょっと」
乗り気になった五郎を引き止める


「何?」

「・・何か店の雰囲気変わったけど・・」

五郎は振り返り「ああ・・」と溜息をついた



「今年に入ってからかなぁ・・
馬場っちとかが受験とかで来なくなってから、客が結構変わって・・

大学生とか、その上のとか・・

買い目的で来る奴が多くなったんだ


援交目的も増えたからさ・・なんか雰囲気も悪くなっちゃった」


確かにガキは金の事しか考えてないようなのばっかりだし、ガキを眺める大人が多い

ガキだって馬鹿じゃない

金をもってノコノコくる素人は逆に喰われる

ここにいる大人もガキも明かに場数を踏んでいると感じた



「オーナーが変わったんだよ
変わったっていっても本田さんは支配人のままだけど、ケツ持ちが変わったっていうか・・」


五郎はそれ以上は言いにくそうに毛先を指にからめた

「・・ふ〜ん・・」


少し前まではガキのたまり場だったソコは大人の介入により金と欲望を満たすための場所に塗り替えられていた





細い目を落ちつかなさそうに動かして五郎は俺に顔を寄せる

「・・ってか、マジで此処もヤバくなってきててさ・・探りを入れられてるって噂もあるから
馬場っちはあんまり顔出さない方がイイよ」






ホールに戻るのも気が引けて非常口の扉の前でタバコを吸っていると雪村が出てきた


一緒にいた女は俺と目が合うと軽く笑ってホールに戻って行った



「・・・」

「・・?何?あんまり良ろしくなかった?」

目を合わせない雪村を覗き込むが顔ごと逸らされる

「・・そんな事ないよ
・・凄く優しいコだった」

優しい?

なんとも言えない曖昧な解答


大概の奴は一線を越えた事で興奮や達成感を口にするのに


これはアレだな


上手く出来なかった時のパターンだ


色々聞くにも気が引けて黙り込む

胸の中に広がるモヤモヤとした罪悪感


特別な事をしてやったつもりはなかったし、雪村だって望んでいたわけでもなかったが、扉の奥に消える時に見せた表情が焼き付いた


俺はただ・・




「・・タバコ・・」

「え?」

「・・タバコ、旨い?」

俺の指先に視線を寄越す雪村の表情は、何時もの穏やかなものになっていた


「・・ん、吸ってみる?」

半分程に短くなったタバコを差し出すと細い指先が触れる


ゆっくりと口元に運ばれていく煙とともに意識が集中していく


雪村の唇がフィルターに触れたところで目を閉じた



ナニカガ オカシイ







「・・ゴホッ・・ゴホゴホ」
煙にむせてる雪村

顔を真っ赤にして口元を押さえている

「・・あ〜・・最初は咽んだよ」

置場のない指先からタバコを抜き取り床に放った


呼吸が整え終わらない雪村の顔を覗き込み、涙が浮かんだ瞳と目が合った

苦しさと不安が入り混じった硝子玉みたいな綺麗な瞳

見えるはずがないのに
その中に自分の姿を見つけた気がした




∞雪村サイド


呼吸が苦しかったから、唇を塞がれて一瞬突き飛ばそうと思ったんだ


両腕を馬場の胸元に伸ばす一瞬前に馬場の手が俺の上腕をガッシリと掴んで、引き寄せられた

唇から鼻に抜ける馬場の呼気がタバコ臭くて

家では吸わない親父の顔が浮かんだ







「・・ゴメン、酔ってんだ、俺・・」

唇に強く押し付けられたそれはあっと言う間に離れていって、背中に腕を伸ばした馬場が耳元でつぶやく



「・・本当に・・久しぶりで・・忘れて」


何時ものしたたかで強気の馬場とは思えない言葉に俺は本気で心配になった

「・・うん、判った」

背中をポンポンと叩いてやれば馬場はため息をついた










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あきゅろす。
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