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白と青と黄色のもろもろ
交差11


「・・ジョーイ」
親父さんの顔は笑っているが声のトーンが僅かに変化した

「・・・」

雪村はゆっくりと顔を上げると親父さんの頬に顔を寄せた


チュッと軽い音がして、直ぐに俯く


親父さんは満足そうに破顔してもう一度雪村の髪にキスを落とした



「いってらっしゃい
楽しんできて」

雪村は俯いたまま振り返ると俺の横を擦り抜けて先に出ていく


「・・失礼します」

軽く頭を下げると、親父さんは手を振った







駅まで並んで歩く

雪村は俯いたまま言葉を発しない


まぁ・・見られたくないモノを見られた気持ちは判らなくもない


雪村の親父さんの顔が浮かぶ

格好イイけど・・


「・・ゴメン、変なトコ見せて」

雪村が小さな声で呟く


俺はため息をついた


「・・別に大したコトないだろ?お前ガキの頃海外にいたんだろ?あんなの普通じゃん」


「・・そうなんだけど」

「それにしても親父さん格好イイな

背も高いし、顔も・・

お前には似てないな」


雪村は少しだけ微笑む

「・・俺、お母さん似だからね」


声が僅かに膨らんだ


あぁ、雪村は親父さんが好きなんだな・・



親父さんは『何時もしている』と言っていた

多分、毎日欠かさない挨拶代わりのキス


僅かに胸がキリキリした




「・・子供の頃、からかわれてさ・・

俺にとっては当たり前の事だったんだけど、学校でも言い触らされて・・

俺だけじゃなくて、親が変に言われるのは正直嫌だった

俺の家って変なのかな?って必死に考えたりして・・」


「・・ハハッ!ガキだから価値観の世界が狭いんだよ

雪村の家がグローバルなだけ

海外なら普通なんだから気にすんな」



雪村はやっと顔を上げて俺を見た


「ん、ありがと
・・親父も親父なんだよ

この歳になってもガキ扱いでさぁ・・


飯とか適当に作れるし、洗濯だって出来んのに」


「何?親父さんがやってんの?」

「そ!お母さんが死んでからずっとやってきたから、今更やり方を変えたくないとか言って・・

子供の時からまったく変えないんだよね」


キスの挨拶も子供の頃からの延長線上ってわけか



「・・いいんじゃねぇの?大事にされてて」

厭味じゃなく本気でそう思った

雪村の瞳が僅かに揺らめく

「・・正直、俺にはそうゆう家庭の悩みとか理解できないけど、俺だったら結構嬉しいと思う

あんな親父さん居たらいいなって思うし」



そう
あんな父親ならいくら煩わしくても大事に思えるだろう


「・・・ありがと」

雪村は本当に嬉しそうに笑った



「・・俺の親の事とか知りたい?」

何気なく空気を読んで聞いてみる


今まで俺自信に親の事を聞く奴はいなかった

居ない理由を聞いてもどうする事もできないし


タブー視して聞かないほうが楽なんだろう

自信を持って話せる親なら別なんだけどな


「・・聞いてもいいの?」

「ハッ・・別にいいぜ
大した話じゃないけど」


どうして自分から話そうなんて思ったのか思い出せない

『お互い親には苦労させられるな』
なんて共感のつもりだったのか・・




∞雪村サイド


「時間も早いしどっかでお茶しよ」

馬場はそう言って駅の周辺をウロウロする

休みで天気も良いせいか何処の店も混んでいた


結局、ビルの間にある日の当たらない公園で缶ジュースを飲む


「俺の親って二人ともピンピンしてんの」

「・・え?」

シビアな話を覚悟していたものだから意外なほど驚いた

「本当、名前も顔も判ってるし、住んでる所も勤務先も知ってる

戸籍とか関係してくるから、すぐ近くにいるよ」

「・・ヘェ・・じゃあ会ったりするの?」



「いや、親父には会った事ないな・・

その家族には何回かね

愛人だった母親に連れられて金の話をしに行った時にいたな

目つきの悪い奴がいた

そいつ、俺のアニキなんだって」


淡々と話す馬場


馬場の父親は何処かの偉い人で、母親はその愛人だった


背中の傷は母親から受けた虐待の跡で、その虐待が公になって施設に預けられた


法的に児童虐待が取り沙汰されてから、母親はプログラムに参加していたが結局子供を引き取るつもりは無かった


「相変わらず自堕落な生活をおくってる

あんな女と住むくらいならホームレスになった方がまし」
馬場は空になった缶を放り投げた



「ゴミを捨てるなっ」

突然座っていたベンチの後ろから声がする


甲高い子供の声


道路に面した柵から子供の顔が覗いていた


「・・知り合い?」

「いや・・」


色の白い小学生くらいの子供が柵に両手を伸ばして喚いている

大きな目が俺達を見つめる

「俺等が遊ぶ公園だぞ
昨日ゴミ拾いさせられたんだ」


俺等・・あぁ、男の子だったのか

あんまり可愛い顔をしてるから女の子かと思った


「・・ごみ箱が無いんだもんよ
仕方ないだろ?」

馬場は面倒臭さそうに答える


「だったら買った店まで持ってけよ
直ぐソコにローソンあんだろっ」


確かに直ぐソコのローソンで買ったんだけどな


「辞めろよ、俊也」

パタパタと足音がしてうり二つの子供がもう一人出てくる


「・・双子?」
喚いている子供の後ろから腕を引っ張り柵から離そうとする



「・・ウルセェなぁ!」
今まで聞いた事がないほど低い低音の声が響く

ビクッとなる双子と俺

馬場のイライラした顔を初めて見て怖くなった


俺は立ち上がり缶を拾い上げると双子の方を向いた


「・・ちゃんと捨てておくから」



「・・ん!」
多少怯えた顔を残しながらも喚いていた子供は俺を見た後、歩き出した


後から来た子供と目が合う
喚いていた子と同じ顔をしていたが、こちらの方が落ち着いて慎重に観察していると思った


性格が随分違うようだ


目を逸らすと先を歩いて行った片割れの後を追って行った


「・・格好イイねぇ」

「チッ・・生意気なガキ」
俺は苦笑した

「まあ、確かにごみ箱に捨てないといけないね」


あんな可愛い双子の頼みだもの



「・・ガキにも舐められてんじゃね?雪村は」

少し機嫌がよくなったのか何時もの馬場の表情に戻ってホッとした




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あきゅろす。
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