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白と青と黄色のもろもろ
交差9


∞馬場サイド


辺りはすっかり暗くなって慌てて時計を確認する

ベッドの右側には雪村

静かな寝息をたてている



すっかり盛り上がってお互いヘロヘロ

明日は休みだし、もう少しゆっくり出来るな・・

もう一度横になる


外の明かりが雪村の顔をぼんやりと照らす


まさかのまさか
あの王子様がねぇ・・

乱れっぷりを思い出し思わずにやける


浮きよ離れした綺麗な顔が怪しく歪む様子を誰が想像できよう


普段はその表情が変わる事は滅多にない


何時も遠くを見ていて、近付きがたい印象すらある


選択授業で同じ音楽を選んだ事が知り合うきっかけだった

評価も甘いし、サボれるとふんで選んだ授業

俺と雪村以外の奴は何らかの楽器が弾けて・・

多くはバイオリンとかピアノとか

特技としているような奴ばっかりだった


そんな中で浮いた二人





音楽担当の女教師は頭が固くて、マラカスやトライアングルではごまかせそうもなかった


「・・どうすんの?」

声をかけてきたのは雪村

初めてみる人種に何処ドキドキした

「・・知り合いにギターを持っている人がいるから・・
それでいいか聞いてみる」
新垣がたしかギターを持っていて、施設の行事の度に弾いていた



楽器なんか買える金はないし・・

音楽とか本当に興味ない


「ふ〜ん・・じゃあ、俺歌おっかな」

「・・え?」

「歌・・声楽っ?ての
楽器持ってないし、買うのも習うのも面倒臭いし・・

声ならタダじゃん?」


・・しまった
その手があったか・・


思いの外、飾らない態度と考えかたが気に入った


女教師はアコギを渋々okを出したが、流石に歌には難色をしめした


「正式な声楽ならわかるけど・・
課題曲もそれなりにレベルを上げさせてもらうわよ


歌なんて誰でも歌えるんだから、評価の付けようがないもの」


「・・先生音痴だろ?
楽譜ばっかり見てっから自分から出る音とか聞いたことないんだろ?」


意地悪そうに笑った王子に誰もが釘付けになった








新垣にギターを貸してもらい、弾き方を教わる

指使いは複雑だがコードを覚えてしまえばそれほど難しくはなかった


アコギは特別な準備もいらないし、練習する場所も選ばないから、面倒臭さがりの俺には合っていたようだ



「いいの貸してもらったじゃん」
音楽の授業中に部屋の隅で練習をしていると、雪村が話しかけてきた


「あ、うん・・」

貸してとギターを受け取りそれなり音を出してみる


・・何をしても絵になる奴だな・・


目茶苦茶な音を出しながら気持ちよさそうに歌い出す


「・・・スゲェ!歌上手いんだな」

思わず本音が出た


何の歌か判らなかったが、まるで本物の歌手のライブのようだった

圧倒されて飲み込まれる


「・・ハハッ!
目茶苦茶だよ、賛美歌をロックで歌うとどんな風になるかと思って」


雪村が笑うと花が咲き乱れるようだった


部屋にいた多くの学生がその笑顔に魅了された





それから音楽室では雪村とよく話すようになった

クラスは別でも、奴の話しはよく耳に入ったし、多分俺のも入っているはず


俺とは正反対で、王子とあだ名が付けられて女子達がキャアキャア言っていた




雪村は裏表がない性格で慣れてくるとその感情が判りやすい事に気づいた

歳相応といった所だが、ただ、他人を寄せつけないのは煩わしさだけではないようだ





雪村とかなり親しくなってから俺は本性を見せた

敢えて雪村の前だけは大袈裟なくらい態度を変えた



最初は雪村は驚き、戸惑いながらも奴は
「普通にしている馬場の方がいい」
と俺を認めてくれた



ヤッパリな


雪村の性格からしてコッチの方がいいのは判っていた

今まで周りに居なかった存在

白い囲いに入り込んだ黒い烏は珍しいようだ



「馬場は凄いな
同じ歳なのに全然大人だね

俺も早く自立したい」


自分よりも大人びた考えを持つ俺にそれらしい好意を向ける

雪村の考えや態度が次第に俺に似てくる


変化を見て俺は満足する


それは初めて味わう感覚だった

今までいた環境は俺にとっては遊びでしかなかった

中学では同じクラスの奴を畳み掛けたり、操作したりして上手く使ってきたけど、アイツらは目的の為の用具でしかなく
使える奴は手元に置き、使えない奴は捨てていった


俺達の年代は色々な事に左右されやすく、敏感で不安定

強いモノに依存しやすく、普通に見られる事に命をかける


だから使いやすい





雪村はその点、少し違っていた
俺の事を認めてはいるが、素直な憧れとして見ている風がある


ぶれない所がある

満足できるまで染まらないかもしれない


俺にはそれが不満だった



何が邪魔をしてるんだ?


日を追って俺の中で不安は大きくなる





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あきゅろす。
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