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白と青と黄色のもろもろ
交差7




コンコン

部屋の扉をノックするも返事はない


「恭一君、せめて怪我の手当だけでもさせてくれないか?」

扉の向こうからは返事がない


仕方ない・・


俺はここの心理士だが、男手がたりないので寮父も兼任している


専攻は児童心理
とくに虐待を経験した児童のメンタルトレーニングを中心としている

一応、大学院にまだ籍をおいたままだ




間宮恭一は子供の頃から回りに馴染めない子だった

様々な検査で障害の有無は否定されたが、彼の大人びな独特の雰囲気は、検査官にも強い印象を与えた


今でも「あの子、どうしてます?」と声をかけられる

知力は高く、体格にも恵まれている

大人や自分より上の人間に強烈なインパクトを与える

天性のカリスマ性があるのか・・



問題は中身だ

誰にも心を開かない

間宮が此処に連れて来られたのは小学生の低学年の時だ


しかも、他の施設からの転移だった

理由は『施設に馴染めなくて、長期での治療が必要』と言われたから


しかし此処でも彼に変化は訪れない



両親は御健在
だが一度も面会に訪れた事はない

それぞれが地位のある立場で家庭よりも仕事が優先のようだ



「・・何処痛かったりしたら何時でも声をかけてね

病院には早めに行った方がいい事だってあるし」


正直、間宮がこんなに怪我をするのは初めてだ

頭とか打ってなければいいのだが



不安を掻き立てる言い方をしたが、中からはやはり返事は無かった



仕方なく階段を降りる


談話室の前を通りかかると、中学生に混ざって馬場が壁にもたれてテレビを見ていた


・・・コイツもな



間宮とは境遇が違えど、馬場も長い間此処にいる


馬場は最年長とゆうこともあるが、寮内で一番恐れられている


なんせずる賢いのだ

卒業した中学ではかなりの問題児だったが、証拠を残さないやり方で、人を使ったり、欺いたりするのだ


教員や学生がターゲットになると徹底的にやるので一目も二目も置かれていた



歪み方じゃ馬場以上のヤツはいない


内申書も担任に書き直させたり、顔を使いわけたり・・・

正直俺だってヤツと絡むのは恐い


今だって一緒にいる中学生等は緊張した面持ちだ



気付くと馬場が俺を見ていた

考えを見透かすような切れ長の目元がグッと細まる


ヤツは笑ったのだ


何もかも判っているかのような顔で、少し馬鹿にしたように笑った


「・・・」

「新垣も見れば?お笑いバトル」
「あぁ・・片付けしてからな」

事務室に戻るとドッと疲れを感じた







∞雪村サイド

風呂に入り、夕飯を済ませて自分の部屋に篭る


開いたままの教科書を眺めてメールをチェックする


『アンタに友達なんかいるの?』

あんな言葉に感情的になって馬場に嫌な思いをさせた

「・・あ〜・・」

俺は本当にガキだ

正直、あんな言葉に馬場が傷つくとかおもっちゃいないが、やっぱ気分が悪かった


大切な人が傷付けられるのは辛い


馬場は本当に大人だ
同じ年齢には思えないほど色々な事を知っているし、理解している

人と比べたり競争する事がメインの学校生活で唯一自分だけの価値観を持っている


窮屈な世界で馬場だけが、一線をおいて飛び抜けている

それを誰も判ろうとしない

馬場が隠しているのもあるが、教師ですら馬場の凄さに気が付かない


「なんで隠すんだよ・・」

馬場が施設から通ってるから?

奨学金を受けて通ってるから?


家庭や環境の不遇の人が自分達より優れている事が許せなくなるのか?


狭い世界が更に嫌悪感を増す



ノックの音がして親父が顔を覗かせる

「明日から出張なんだが・・」

「あ、うん
こっちは大丈夫だよ
金だけ置いていってくれれば」

「すまんな」


親父は部屋の中を見渡してベッドに腰掛ける


「学校はどうだ?」

「変わらない
殆ど中学とメンバーはかわらないもん」

「・・馬場君、だっけ
彼は編入してきたんだろ?
クラスが違うのに仲がいいね」

「・・うん」

親父は穏やかな顔付きをしているが居心地の悪さを感じる

こうゆう会話なら普通の親子みたいなんだけどな



「・・親に言えないような事をしてる?」

心臓が跳ねる

「・・何?ソレ
普通に勉強教えてもらってるだけだよ」

話を切るように机に向かう
「ふーん
馬場君は優秀なんだね

それともジョイが馬鹿なのかな?」


「・・どっちもかな・・」

親父が立ち上がり背中越しに教科書を覗き込む


「・・俺、課題やらなきゃいけないから」

「なんだ、教えてやるのに」

「いいよ、大丈夫」


シャーペンを持つ手を捕まれて親父の顔が真横に来る

「・・明日は会えないんだ
もう少し寂しそうにしたらどうだ?」

親父の頬が俺の頬を撫でる

ザラザラとした髭があたって痛みを感じる


「・・俺だって15だ
少しの間一人だって平気だよ」

親父は俺の頬にキスをして、次に握った手の甲に長い間キスをした


「・・・」

「キスはしてくれないのか?」

「・・お土産よろしく」

チュッと挨拶がわりにキスをする

「いい子にしてるんだぞ」
「判ってるよ、バーイ」


頭をワシャワシャと撫でて部屋を出ていく


・・・過保護なのかよく判らない


親父は俺を見る時、多分母さんを見ている

俺がドンドン似てくると言って過度なスキンシップをはかる


海外で育った俺は、それが当たり前だったけど、日本はそうじゃない



かといって、親父を突き放すのもなんだかな




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あきゅろす。
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