短編 2 それから、なぜかノリノリな中村に「校内を歩き回ってみようぜ!」と提案され、抵抗空しく引きずられるように3人に教室から連れ出されてしまった。 中村は多分単に他人の反応見たさだけど、潤ちゃんと鈴木は俺の反応見て楽しんでるだけだよね絶対。 だって、さっきからなんとか自分よりも幾分か背の高い潤ちゃんと鈴木の影に隠れようとしてるのをニヤニヤ笑って観察したり、わざと前に押してくるし。くそぅ。 放課後とはいっても部活で残ってる生徒はもちろん、学校に残ってだべっている生徒達もチラホラいる。 そんな生徒達に驚いた顔で見られたり、時々写メられたりしながら、4人でブラブラと廊下を進んでいく。 校舎内を結構な時間徘徊した頃。 「大体、反応見れたな。腹減ったし、そろそろ帰ろうぜー」 という中村の言葉に、思わずホッと息を吐く。 少し先に前を歩く3人を見ながら、そろそろ頭の猫耳を取ってもいいかな、と思い立って猫耳に手を掛けた時だった。 「西花…?」 落ち着いた覚えのある低い声に思わずビクリと肩が跳ねた。ギギギとゆっくりと後ろを振り返る。 「……何やってんだ、お前」 「い、いんちょー?!」 そこには、訝しげな顔で俺に近付いてくる俺の想い人である図書委員長がいた。 ぎゃー、委員長に見られたっ! どどどどどどどどうしよー!!!! 3人のいる方向をバッと見てみるけど、もうそこには誰もいない。 え、何で?! 置いてかれた?! 学校で猫耳つける趣味があるなんて思われたくなくて、置いてかれたってこともあって頭の中はパニック状態。そんな俺の口から出た言葉は…… 「と、トリック オア トリート!」 近くまで来た委員長の顔は、俺の言葉に呆気に取られている。 直ぐにやってしまったと思った頃にはもう遅い。しかも無意識にちゃっかり手まで差し出してるし。 馬鹿っ…俺の馬鹿!!! 内心泣きそうになって、俯く。すると、目の前からくつくつと微かな笑い声が聞こえてきた。驚いて、バッと顔を上げてみるとそこには肩を震わせて笑う委員長がいた。普段のクールな顔が崩れて、初めて見る顔に思わず魅入る。 「そうか…今日はハロウィンだったな」 まだ若干、笑いの収まらない委員長がそう呟いたことでやっと俺はハッとなる。 「まさか、こんなこと言われるとは。…しかも、猫耳つけた状態で」 「こ、これはっ」 「ああ、そうだ。良かったな、西花」 慌てて弁解しようと、口を開いたけど何かを思い出した委員長に遮られる。 何だろう、と首を傾げると、委員長はブレザーのポケットから何かを取り出した。そして、取り出したものを俺の手の平の上にそっと置く。 「チョコレートと飴…?」 そこにはチョコレートの包みが二つと棒付きキャンディが一つ。 「やるよ。悪戯されたくねぇからな」 そう言って、ニッとカッコ良く笑う委員長にポケッとした顔を晒してしまう。 だって、貰えるとは思ってなかったし、こんな短時間で笑う委員長いっぱい見れるなんて……俺の頭はショート寸前だ。 「…おっと、そろそろ行くわ。じゃあな、西花」 委員長は腕時計を確認して、俺の肩をポンと軽く叩くとそのまま横を通り過ぎていってしまう。 「あ、お菓子…ありがとうございましたー!!!」 俺は、慌てて振り返るとその背中に向かってお礼を言う。 「ああ…Happy Halloween」 委員長は、そんな俺にチラリと顔だけ振り向き、発音の良い英語でそう言った。 やばい……カッコ良過ぎるんだけど委員長。 俺は、赤くなる頬を誤魔化すようにくしゃりと前髪を握り締める。もう一方の手の平にある冷たい筈の3つのお菓子からあたたかさを感じて、胸が熱くなった。 [*前へ] [戻る] |