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短編
ヘタレワンコ×俺様ツンデレ

俺の真っ赤に染めたばかりの髪を飽きもせずに、梳く大型犬がソファー越しの背後に一匹。
もちろん実際に大型犬が俺の髪を梳いてるわけではねぇ。れっきとした人間だ。
俺より身長がでけぇ癖に表情をコロコロ変えて、うっとおしくらいに俺に懐いてくる。そのじゃれつきようはまるで大型犬みたいだからそう比喩しただけだ。そんなコイツは…まあ…俺のペット……あー、兼恋人だって言ってやってもいい。

んで、ソイツはソファーに座って本を読んでる俺の髪を現在進行形で梳いてるわけだ。
サラサラなわけでも手触りがいいわけでもねぇ、染めまくっているから寧ろ逆だ。
それなのに、何が楽しいのかずっと満面の笑みで弄ってやがる。


一体どれくらい経った頃か、ソイツのただ遊ぶように髪を梳く手が優しく撫でるように触れる手に変わっていた。そのあまりの心地良さに、眠気に誘われる。本は最早読んでいるのではなく、ただ見てるだけになっていた。
あー、ねみぃ…手ぇすっげ気持ちぃ。
絶対口に出しては言わねぇけど、コイツにこうやって撫でられんのは結構……嫌いじゃねぇ。
本を持ち上げるのも限界に近づいて、ついには腹の上に放置だ。
…栞、挟んでねぇや。
そんなのことを頭の片隅で思いつつ、更に気持ちよくなってきていた。本格的に眠ってしまおうか、とソファーの背もたれに体重を預けて目を閉じた時だ。


「ねぇ」
「…んあ?」


柔らかいコイツの声が耳に心地いい。


「…大好きだよ」


いきなりの言葉に、一瞬言葉に詰まってしまった。ついでに眠気も飛んでいってしまったらしい。


「…あ? んな下らねぇこと言うな」
「…ごめん。でも、どうしても言いたかったから」


俺のだるそうな言葉に、寂しさの滲んだ声がそう言った。


「…チッ うぜぇ」


小さくそう呟くと、すぐに悲しそうな声音で謝る声が返ってきた。
思わずもう一度舌打ちが出そうになる。


コイツが俺を好きだってのは知ってるし、素直に気持ちを伝えるタイプだってのは分かってるつもりだ。俺のお前への気持ちを言葉にして言ってほしいってのにも気づいてる。
でもな…言葉にしなくても分かんだろ。この俺がお前にこうやって甘んじて触らせてんのも、傍にいさせてんのも…全部お前だからに決まってる。この俺が、だぞ?


「…気づけよばぁか」


聞こえない程度の声でそう言った。それから、多分コイツの情けねぇ顔が目の前にあるんだろうな、と思いつつゆっくりと目を開けた。


「ふはっ」


予想を裏切らない思った通りの情けない顔が目の前にあって、思わず吹き出した。
真上にある顔に手を伸ばして、頬にゆっくりと触れる。


「なっさけねぇ顔」


俺が笑ってるのにつられてなのか、相手にしてもらえて嬉しいのか目の前のコイツはふにゃりと嬉しそうに顔を崩した。
酷い言葉を言った自覚があるが、コイツは気にしてもいねぇ。…ホントに変な奴だ。
コイツは、ただ嬉しそうに俺の手に顔を擦り寄せる。
その仕草が、やっぱり犬を思わせて、更に笑いを誘った。
ああ、でもこの顔。俺だけに向けるこの顔が結構気に入ってたりする。絶対に言わねぇけど。
こんな俺を好きなんて、馬鹿なヤツ。でも、今更手放す気なんてさらさらねぇ。

さらに手を伸ばして後頭部に…そして、思いっきり引き寄せた。
コイツの驚いた顔にニヤリと笑って、俺はゆっくりと目を閉じる。

唇が触れたのはたった一瞬。そんな幼稚なキス。
今だ呆然としているコイツに俺なりの愛の言葉を贈ってやろうか。


「ばーか」


(大好き? んな言葉じゃ表せねぇんだよ)



なぁ、お前は一体いつこの()の中にある俺の想いに気づいてくれるんだ?








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