short 欲しい 職員室を出て廊下を歩いていると、前方から見覚えのある派手な男が現れる。あんな目立つ男を見間違えようもない、神宮寺だ。 「こんなに遅くまで仕事か?」 「誰かのせいで、余計な仕事までしなくてはならないからな」 「悪い悪い」 反省の色のない謝罪には、眉をひそめるしかない。俺は良いが、手伝ってくれている先輩には謝れ。 「お前もずいぶんと遅いようだが」 「まぁな」 「まったく、役員としての自覚はないのか?」 「勝手に選ばれただけだ」 確かに、この学校の役員決めは、他者からの推薦のみによるものである。自由気ままな神宮寺に、自覚を持て、なんていうのは無理な話かもしれない。 「お前は…頭も良いんだし、女子生徒からの信頼もある」 「は?」 「それに、周りをよく見ているだろう。生徒たちの細かな変化に気づいたりだとか」 女子生徒たちの小さな変化も見逃さずに声をかけている。髪型から服装、化粧のことから体調まで見逃さず、この男の観察眼には驚かさる。 「だから、気配りのできるお前なら、生徒会の仕事も向いていると思うんだが。ああ、どうしても嫌なら無理強いはしないぞ」 他の生徒たちも、それがわかっているからこそ、神宮寺を推薦したんだろう。神宮寺なら学校を任せられると判断したから、選んだのだと思う。 「…お前、結構恥ずかしい奴なんだな」 「なんだと」 ふ、と顔を緩める神宮寺に、こちらの顔は渋くなる。恥ずかしくはないだろう。事実は事実だ。 「俺には、お前の力が必要だということだ」 そうだ。神宮寺がいてくれれば、生徒会の仕事も捗る。生徒たちも、それを望んでいるはずだ。 「…仁科」 神宮寺は、目を見開きこちらを凝視している。俺の発言が、そんなにおかしかっただろうか。 [*前へ][次へ#] [戻る] |