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このまま



「ごめん、遅くなって」


その翌日。6限まで入っていた講義もいつも通りに終わり、大学の正門で待つ真暖に、急いで駆け寄る。断ったのだが、どうしてもという真暖に、朝も送ってもらい、帰りもこうして迎えに来てもらっている。まったく、得体の知れない男のくせに、立ち姿だけでかっこいいなんて。



「いや、大丈夫だ」

「小太郎!」


答える真暖の足元には、小太郎もいた。



「なんだ、仲良くなったのか?」

「なってねえよ。ただ、こいつがついてきたいっていうから」

「小太郎が?いい子だなー」


いったいいつの間に仲良くなったんだろう?真暖ってば、俺が小太郎を抱き上げる度に引き剥がしてきたり、撫でる度に恨みがましい視線を向けて文句を言ったりしていたのに。



「帰ろっか」


小太郎を抱き上げ、真暖の隣に並ぶ。今までは、大学からの帰りも、びくびくしながら、逃げるようにして家まで向かっていた。友だちなんかに遊びに誘われても、何があるかわからないので、最近はずっと一人てこの道を歩いていた。

誰かと歩くなんて久々だし、家に早く帰ることに必死で、周りを見る余裕すらなかったから、単純な道のりも新鮮に感じる。


「今日は何もなかったか」

「うん、特に何も」


同級生と接触することもなかったし、誰かに見られているような感覚も、なかった。とは言っても、あの同級生も、俺が友だちといるときなどは話しかけては来ないのだが。



「真暖の方は?何か変わったことはなかったか?」

「お前がいない間に、手紙が来てた。話の通り、お前の盗撮写真入りのな」

「そ、っか…」


忌々しげに眉間に皺を寄せる真暖のおかげで、俺も少し冷静でいられる。俺以上に真剣に憤ってくれるのが、嬉しい。



「あの野郎、今もついてきてやがる」

「今って…」

「心配するな。お前を危険にさらしたりはしない」


びくっと揺れた肩を、真暖が抱き寄せてくれる。背筋を走った恐怖も、真暖の手のひらに飲み込まれてゆく。真暖がいるだけで、こんなにも暖かくなれるんだ。



「年下に頼りきりじゃ、情けないよな」


まだ出会ったばかりの相手なのに、俺はすっかり、真暖に寄りかかってしまっている。得体の知れない、俺を伴侶だなんて、運命だなんて、奇妙なことを言う相手に。



「いいんだよ、俺はお前の旦那なんだから」


これまでなら、否定していた言葉なのに。なぜだか、反論しようとは思わなかった。




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あきゅろす。
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