short 嫌い 「……わかった、それはまた今度にしよう」 「誓?」 真暖が、俺に嫌われたくないと、苦しげに顔を歪めるから。今は、いろいろな問題を、見ないことにした。実害さえなければ、この男がどんな発言をしようと、なんの生き物だろうと、俺には関係もない。 「そうだ、誓」 「なに?」 「…お前、何か、困っていることがあるんじゃないか?」 不意に、両肩を、大きな手で掴まれた。咄嗟に体を引こうとするが、肩の手の力は強く、それは叶わなかった。 「それとも、不安なこと、か?」 「え、」 いきなりの質問に、一つ、頭を過ることがあったが…。 友だちにも隠していたのに、どうして…昨日会ったばかりの真暖に、わかってしまうんだ。 「ないって、そんなの」 「昨日も思ったんだが、顔色が良くないぞ。そこの奴も、心配してる」 俺のそばにいる小太郎を、ちらりと見やる。小太郎は、真暖からの視線に、返事をするように吠えた。小太郎にも、俺の不安が伝わっていたのかもしれない。だけど。真暖を巻き込んでしまうかもしれないんだ。…言えない。 「真暖は…どこに住んでるんだ?」 「……時津山だ」 「あの、時津山?」 わかりやすく話を転換させれば、なにか言いたげに口を開いた真暖だが、結局、問い詰めるようなことはしなかった。 時津山。ここからそう遠い場所ではないが、森の中は険しく、人は滅多に近づかない山だ。 あれ、人が住めるようなところなのかな。真暖は、人じゃないとかよくわからないこと言ってるけど。 「今は、近くのホテルに泊まってるが」 俺を探すために、か?とすれば。 「お前、普段は何してるんだ?学校は?」 「通ってない」 「ふーん…」 ならば、働いてるのだろうか。本当に、素性の知れない男だ。どこまでが真実で、どこまでが嘘なのか。 「とにかく、今日はもう帰れよ。俺も帰るから」 「…送る」 「大丈夫。小太郎がいるからな」 頼りたくなるなんて、そばにいてほしいと思うなんて。どうかしてる。 [*前へ][次へ#] [戻る] |