short 事実 「ねえ、神宮寺くんのことなんだけど」 昼休み、購買へ向かう途中で、女子生徒たちの声が聞こえてきた。俺の頭の中に住み着き離れない人物の話題に、足が止まる。 以前は、純粋に役員として、神宮寺を必要としていたのだが、最近では意味が違ってきてしまっている。 神宮寺は、しっかりと役員の仕事を全うしてくれているというのに。選ばれたからには責任を持て、なんて言っておきながら、俺は、生徒たちのことよりも神宮寺のことばかり考えてしまっていた。 「最近の辰巳は付き合い悪いよねー」 「彼女でもできたのかな?」 「辰巳に?ないでしょ」 「でも、今日もあの子といたよ。B組の…」 「あー、あの子。付き合ってるの?」 「そうらしいよ。あの子、可愛いもんね」 「えー、どうしよー、私、仁科くん狙いにしようかな」 「仁科くんもいいよねー!」 数人の女子生徒たちの会話に、さっと、指先が冷たくなってくる。 そうか、神宮寺…彼女がいるのか。 もともと、女子との噂の絶えない男だ。恋人がいたっておかしくない。 それに…俺と神宮寺は生徒会役員という接点はあるが、友だちでもなんでもない。 単なる役員仲間であるだけで、これ以上、近づけるはずもないのだ。いくら想っていても、どうこうなる問題ではないのは、わかっていたことなのに。それでも、神宮寺の隣にいることができる人が、羨ましい。 現実を突き付けられて、しばらく、凍りついたようにその場から動くことが出来なかった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |