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権輿

始めは…そう、敬愛して止まない信玄公から身を固める気はないかと話を頂いた後の事だった。




困りかねた真田幸村は宿敵である奥州筆頭、伊達政宗を尋ねていた。

手合わせして汗を流せばいくばくか心が軽くなるのではと思っての事で、突然の来訪だったにも関わらず政宗は嫌な顔ひとつせずに幸村を歓迎した。

手合せに熱中すれば思っていた通り幸村の心は一時晴れはしたが、夜になり酒が入るとぶり返したように気が重くなってきて、双竜相手にその思いを吐露する事となった。



旅の疲れが出たのか、その日はやけに酒のまわりが早かったように思う。



「某、まだまだ修業の身ゆえ、妻を迎える事などとうてい考えられませぬ…!」

すっかり出来上がってしまった幸村は、赤い顔で憤りながら一国の主とその側近に絡んでいた。

「真田、もうこの辺にしとけ。」

つまみに手を付けようともせず、先程から盃に入れた酒を一気に仰ぐ幸村に小十郎は眉を寄せる。
幸村を諫めようとしたところで、政宗が小十郎を止めた。

「Hey,いいじゃねぇか小十郎。酒は男のたしなみ。たまには、人の愚痴に付き合ってやるのも悪くねぇ」

政宗はにやりと口元を歪めて酒をあおる。


「……政宗様。面白がっておいでですね」

「こいつが愚痴るなんて、最初で最後の事かも知れねぇぜ?しかも一番縁遠そおな婚姻話だ。…まぁ、こいつもここだからぶちまけられる事だってあるだろ」
「しかし…」

クックッと笑う政宗に小十郎の眉間のシワが深まる。

「お二方とも!!聞いておられるか!!」


完全に目の据わった幸村が頬を朱に染めて吠えると、「聞いてるから続けろ」と愉しげな政宗が相槌をうつ。

二人を見やって小十郎はため息をついた。

幸村が此れ程荒れた酒を飲むのを見るのは初めてだ。家督を継がせる為にも子を成すのは勤めのうち…なのだが、初すぎる幸村には余程重い悩みなのだろう。

前々から思ってはいたが、ある種女人を嫌っているのかとも思えるこの男の将来は大いに心配である。

羨ましい程まっすぐなこの男を小十郎は割と気に入っていた。
酔い潰れるのも時間の問題と、結局小十郎も付き合う事にする。


小十郎の予測通り、小一時間もせずに幸村は酒に呑まれる事となった。


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あきゅろす。
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