色街(※第一幕後、街に出た佐助の話です)
久々に街に出た佐助は、気前良く酒代を奢ってくれた男と二人でぶらぶら歩いていた。
変装した今の佐助の名は『諭吉』。
佐助が情報収集や、今日の様に町に出る時に使っている姿だ。
前髪を下ろし、長い黒髪を後ろに緩く結わえた、いかにも遊び慣れた雰囲気の男を装っている。
隣の男の名は『長次郎』。
佐助よりも幾分背が高く、長旅をしてきたという男の身なりは小汚い。
だが、よくよく見れば鼻筋の通った顔だちをしているので、不揃いの髭を剃り、身綺麗にすれは随分な色男になるだろうと思う。
変な飾り気の無い男で、人懐こく豪快に笑う男だった。
佐助が空いていた店に適当に入り、1人で酒を飲んでいる所に声をかけてきたのがこの長次郎だった。
豪勢に女を2人はべらせており、連れの女が諭吉を気に入ったので声をかけてきたらしい。
佐助は初めこそ乗り気でなかったのだが、人懐こくて豪快に笑うこの男の話は面白く、思いの外楽しい酒を飲む事ができた。
そのうち連れの女たちが帰るというので、女たちを家まで送り、今は長次郎を宿まで送り届けるところだった。
久しぶりに酔いの回った佐助だったが、まだまだ余裕があり、かたや長次郎はおぼつかない足で右へ左へとふらふら歩いている。
長次郎は男だし、帰るべき宿もわかっていたので放置してもよかったが、大金を持っている口振りだったので佐助は護衛してやる事にした。
楽しく酒を飲む事ができたし、酒を奢って貰った礼のつもりだった。
それにしても、最近酔っ払いの介抱ばかりしている…佐助は自嘲気味に笑った。
途中、色街の灯りで明るい場所を通りかかると、大人しく歩いていた長次郎の足が止まった。
「諭吉ぃー。俺あっち行きてぇ」
長次郎が色街の方を指差して駄々をこねはじめた。
長次郎には人を引き付ける魅力がある。汚い身なりでも二人も女を連れていた事がその証拠だ。遊女からさぞかし持て囃されるだろうとは思うが、女を買うにも宿を取るにもここでは少々高くつく。
例え金の事は良しとしても、行った所で長次郎が爆睡するのは目に見えていた。
着いた途端に寝てしまっては意味が無い場所だ。
「あんたねぇ…そんなに酔ってちゃ、あっちに行っても意味無いでしょ。だいたいもう宿とってるんだよね?」
佐助は親切心で言っているのに長次郎は言う事を聞かなかった。
「あっちの宿の事はいいからさぁ〜!な?お前の分も出してやるからさ。一緒に行こうぜ!」
「!!ちょっと!!!」
さっきまでフラフラ歩いていたのが嘘の様に、長次郎は強い力で佐助の手を引いて歩きだした。
何だか色々とめんどくさくなってきた佐助もやがてそれに大人しく従う。
「やっぱ国が変わると雰囲気が違うなぁー」
「こんなのどこ行っても似たり寄ったりでしょ」
「いやいや、やっぱ佇まいつーか何つーか…まぁ、違うもんは違うんだよ」
しきりに感心する長次郎に、深く関わりを持ちたくなかったはずの佐助はつい聞いてしまった。
「ところであんたどっから来たの?随分景気良さそうだけど…」
長次郎は人懐こい笑みでこういった。
「な・い・しょ」
「…………」
長次郎は呆れて立ち止まった佐助をまたぐいぐい引いて、何処が良いかと見て回る。
途中、何度か『諭吉』としての顔見知りの会い、声をかけられたので適当にあしらっていると長次郎は感心した様に諭吉を見る。
「お前顔が利くんだな。まぁいかにも通ってそうだけど!」
「通っちゃないけど…まぁ、それなりにね」
顔が広くなければ、集まる情報も集まらない。
「じゃあ、どこが良いか知ってるんだろ?お勧めはどこだ?」
「この辺はどこも似たり寄ったりだよ。それより、俺明日早いからそろそろ帰りたいんだけど…」
「だったら余計ここで寝てけばいいじゃねぇか!それがいい、やっぱそうしようぜ!!俺一人じゃ淋しいし」
鼻歌混じりに歩く男に、佐助はいい加減疲れてきた。どうでも良くなってきた佐助は、この辺りでも高めな店を一件案内してやった。
決して嫌がらせではなく、大金を持っているらしい長次郎の身を思って質の良い店を選んでの事だ。
帰ると言っているのに、長次郎は二人分の料金を支払い遊女に連れられてさっさと行ってしまう。
「お代も頂いたし、諭吉も久々に来たんだから遠慮せずに遊んでいきなよ。」
帰ろうとする佐助を察した店の主人がすかさず声をかけてくる。
「そうそう諭吉。丁度、今良い娘が空いててねぇ」
「いや、今日は…」
店主は佐助の言葉に構わず、遮るように店の奥に声を掛ける。
「蓮華(れんげ)!」
すると、店の奥から赤い着物を纏った小柄な遊女が一人出てきた。
するすると長い着物の裾を引きずりながらこちらにやってきて、佐助の前に座ると三つ指をついて挨拶した。
「蓮華です。よろしゅうお願い致します」
蓮華は大きな瞳のせいか、幾分幼さが残る遊女だった。
白い肌に真っ赤な着物が良く映えており、既に別の客を相手にした後なのか、明るい色の髪を結い上げずに後ろにたらしている。
美人というより、可愛らしいという言葉の似合う遊女だった。
蓮華にまっすぐ見上げられ、佐助は小さく息を飲んでいた。
顔立ちが似ている訳ではなかった。
だが、身に纏う赤、後ろに流した髪の色、真っすぐに見つめてくるその双眸。
それらが、どことなく城で寝ているはずの主人を佐助に連想させたからだ。
今の佐助にとって、僅かでも幸村を連想させる物は禁忌に近い。
折角忘れていた幸村の温もりを、思い出してしまいそうだった。
「少し前に入った娘なんだけどね、今一番の有望株なんだよ。椥(なぎ)は今出られないけど、この娘はどうだい?」
佐助が万更でも無い事を見抜いた店主が、自慢気に蓮華を売り込んでくる。
佐助がいつも椥という遊女を指名していた事を覚えていた店主は、一度貰った代金を返したくないので代わりの娘を勧めてきているのだ。
佐助は迷った。
幸村から身を預けられた時こそ身体は昂ぶっていたが、今ではすっかりその気も失せている。
だが。
明日からまた幸村との『普通通り』の生活が始まると思うと、佐助の気持ちは暗くなる。
自分を偽るなど簡単な事なはずなのに、正直考えるだけで今は辛い。
…もともと、今夜くらい羽目を外しても罰は当たらないだろうと思って町にやってきたのではなかったか…。
やがて頷いた佐助は、華奢な蓮華の手を取って案内されるままに部屋へと向かった。
結局、佐助は一晩をここで過ごした。
※以下、佐×蓮華です。
見なくても本編に支障無いので、嫌な方は閲覧しないで下さい。
*********
佐助が蓮華を連れて部屋に入ると、蓮華はニコッと笑い改めて挨拶してきた。
佐助の上着を受け取り、綺麗に畳んで自らの着物も一枚脱ぎ落とす。
「諭吉様のお噂は聞いた事がございます。忘れた頃にやってくる、たいそう不思議な色男だと…」
蓮華が佐助の胸に顔を埋めるようにしてしなだれてきたので、佐助はその身体を抱きしめ、蓮華の頭を撫でてやりながら佐助は思う。
先程、腕の中に収めた幸村もこうして撫でてやりたかった…。
「へぇー…俺ってそんな風に噂されてるの。で、実物は噂に違わぬ色男だったかい?」
蓮華は笑って頷いた。
佐助も微笑んでやり、小さな蓮華の唇を塞いで唇を舐める。下を差し入れると蓮華が小さく喘いだ。
手慣れた手付きで帯を解いてき、胸元から手を滑り込ませて着物を肩から落としていく。
口付けをいっそう深くしながら愛撫をすると、細い蓮華の肢体が切なく揺れた。
透けるような白い肌は、手に吸い付いてくるようにみずみずしく、感じやすいのか演技がうまいのか、たびたび震える細い肩やしなやかな肢体は何とも征服欲を駆り立てさせる。
成る程、店主が自慢するだけの事はあると佐助は思う。
蓮華を押し倒した佐助は、全身を愛撫しながらすっかり着物をはぎとった。
程よく膨らんだ胸、括れた腰、柔らかな太股。
すっかり息の上がった蓮華の下肢へ手を伸ばし、佐助は蓮華の秘部を指で確認する。
途端に甘い声を上げた蓮華のそこは、既に滴る程に濡れていた。
男であればこうはいかない。
だが、不毛だとわかっていながらも佐助は蓮華に幸村を重ねてしまう。
冷静に蓮華の様子を観察しながら、同じように幸村が喘ぐ様を思い描いて愛撫を繰り返す。
本当の主人は、どんな風に喘ぐのだろうか。
蓮華の視線が切なげに先を強請ったので、佐助は蓮華の秘部にそそり立つ己を押しあてた。
それだけで蓮華の肢体が震えて喜びを伝えてくる。
ゆっくりと中に入っていくと、蓮華は気持ちよさそうに背を剃らせた。腰を進め、律動を繰り返してやると大きな声で蓮華が鳴き始める。
こんな風に、旦那を鳴かせてみたい。
鍛えられた幸村の身体は、蓮華のものより一回りは大きい。
胸だって平らだし、二本の槍を操る腕は蓮華の様に華奢ではない。腹筋も、太股も無駄な肉のついていない身体はひきしまっており、しなやかではあっても、蓮華の身体のように柔らかくもないだろう。
それでも、佐助が求めるのは幸村の身体だった。
武将でありながらも白く傷の無い肌。
引き締まったバランス良い肢体。
柔らかな髪。
真っすぐに物事を捕えるその双眸。
…旦那…!
組み敷く蓮華の顔を見た途端、佐助は深い虚脱感に襲われた。
自分が虚しかった。
佐助は考える事を止めた。今は十二分に可愛らしいこの遊女との行為に集中する。
たまにはこうやって、何も考えない事があっても良いよね…。
…そうだろ?旦那。
行為に集中しなくては、泣いてしまいそうだった。
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