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暁の空
3
「おはよー! 真柴とハーフ!」

「なんで俺だけ名前で呼んでくれないのー?」

前方から声をかけてきたのは一年生の時に同じクラスだった藤堂彰将(とうどうあきまさ)。
部活に命をかける体育会系で
頭の方は残念だけど全国トップクラスの実力を誇るサッカー部のエースだ。

「真柴って真柴って感じがしないんだよな!」

「何それー?」

「もっとこう……アレックス的な名前の方が似合う!」

「フランスだとアレックスじゃなくてアレクシスの方がメジャーかなー」

「ボブいないのか!!?」

会話をしているようで言葉のドッジボールをしていある二人を放っておいて下駄箱で上履きに履き替える。
その先にある掲示板には人だかりができていて、
皆、クラス割を見ているらしい。

「……。」

見えない。
最近の子どもはどうしてこんなに発育がいいんだろう。僕も最近の子どものはずなのに。

身長が154センチしかない僕は下手すると女子より小さいから、目の前の人だかりの中から自分のクラスを確認できるわけもなく……

「やったー! ゆぅちゃん今年も同じクラスだよー!」

喜一に見てもらうしかなかった。

「ハーフ! 俺は!!?」

「藤堂はBクラスだねー」

「まじかー! ショック!」

ちなみに僕達はAクラスだ。
成績で分けられているなんて言われているけど全くのデタラメで、実際は忘年会により教師一同が白熱したくじ引き大会を行って決定する。

うちの学校は生徒も教師も優秀だと評判だけど、
変なところで抜けているというか、
質の良い教育を受ける、受けさせるという点で頑張ってるんだからその他のところは好き勝手にやろうぜ精神なのでたまにこういうことをする。

「誰だよ俺の名前引いたやつ!」

「町本じゃないー? 担任のとこ書いてあるよー」

基本的にくじを引いた教師が担任を務めることも知っているのは極一部の生徒だけだ。

その多くが学校関係者を親族に持っている。

「なんで叔父さんそこで親族パワーを発揮すんの!! 俺のことそんなに好きなの!」

「大好きだとも!!!」

叫ぶように不満を漏らす藤堂を後ろから羽交い締めにしているのが町本(まちもと)先生。
藤堂のお母さんのお兄さん、つまり叔父さんだ。

「暑苦しいのは一族の特徴なんだねー」

運動神経抜群の藤堂はサッカー推薦、
町本は体育教師で元Jリーガーだ。
血縁というものはすごいもので、
彼のお母さんも元プロのアスリートだったと聞いている。

「暑苦しいのはほっといて教室に行こう。」

「はぁーい!」

町本に捕まった藤堂を見捨てて教室に向かえば、
新学年に浮かれた生徒もいれば
仲の良い人物とクラスが離れたのかそうそうに気を落としている生徒もいる。

ガラリと音を立てて引き戸を開けば
既に席についていた生徒達の視線が集まる。

「おー! 2人も同じクラスか!」
「やった! 真柴くんと同じクラスだ!」
「星野がいるなら今年の成績大丈夫だなー!」

うるさい。
いっぺんに話さないでほしい。

「一年間よろしくねー」

イラつく僕の代わりに話してくれる喜一だけど
正直彼も騒がしいのはあまり好きではないから
なんとかして落ち着かせようとしているらしい。

「なあ、そう言えば緋山太一って知ってるか?」

「知らない。」
「誰それー?」

緋山……聞いたことない名字だな。
もしかして件の転校生だろうか。
そう思考を巡らせていればホームルームを告げるチャイムが鳴った。



「よー。今日から1年間お前達の担任になった池村だ。よろしくなー。」

今年度の担任は池村(いけむら)と名乗る教師で、
やる気のなさに定評がある適当な人だ。
英語を受け持っている彼は
常日頃からぼーっとしておりたまに生徒の前で喫煙をするパッと見柄の悪いヤンキーだけど、
英語の発音の良さと教え方のうまさは折り紙つき。

何かと生徒から人気の高い先生で安心した。

「それから、今日からうちの学校に転校してきた生徒がいるから紹介するぞ。入ってこい。」

「はい。」

開けっ放しの扉の向こうから聞こえたのは、
落ち着いた印象の声で少しだけ池村に似ている。

「今日からお世話になります。緋山太一(ひやまたいち)です。
よろしくお願いします!」



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あきゅろす。
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