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暁の空
2

僕の通う中学は家から歩いて15分程の場所にある中高一貫校で、生徒数は500人程度だってこの間担任の平野が話していた。

兄も同じ学校に通っており、
彼は高等部の2年生。

兄が登校してくるのは僕より三十分近く遅いから一緒に行くことはないんだけど、
その代わりに……

「ゆぅちゃーん! おはよぉー」

ずっと昔から聞いてきた間延びした話し方、
振り返れば見なれた色素の薄い髪が目に入る。

「喜一(きいち)、おはよう。」

真柴喜一(ましばきいち)は幼稚園の頃からの付き合いで、俗に言う幼なじみだ。

最近僕は彼に対しての不満が溜まっている。

それは、

「今日もちっちゃいねぇー」

10センチ以上でかいこの体格だ。
同い年のくせにまるで子どものように僕を扱う。
ポンポンとその大きな手が僕の小さい背を余計に小さくしようとしてるように感じて、
思いっきり振り払えば
肩をすくめて彼が笑う。

「やだぁーこわーい」

「朝からその気の抜ける喋り方するのやめてくれる?」

「昔っからって知ってるくせにぃー?」

彼は世間ではイケメンと呼ばれる部類に入る。
その主な要因が日本人離れした顔立ちと、
年齢に見合わないガタイの良さだ。

喜一と出会ったのは幼稚園に入ってすぐだった。
彼は大勢いる園生の中でも一際目立っていて、
今では想像がつかないほど尖っていた。

"なんかよう?"

子どもながらに子どもらしからぬ子だと思った記憶が今でも残っている。
父親にフランス人を持つ喜一は、
目鼻立ちがはっきりしていて
何よりもその金髪に近い茶髪が人々の目を引き付けていた。

目の色も少し青みがかっていて、
明らかに同じ日本人ではなかったから
周囲との統一を好む日本人の特性から外れ、
その容姿に対してケチをつけられることが多かったらしい。

そのせいで若干の人間不信に襲われていた彼は、
幼稚園で馴染めずに浮いていた。

そんな彼が気になってずっと見つめていたら
半ばキレ気味にそう話しかけられて
ちょっと身構えてしまったことを後悔した。

"きみの目はぼくとちがうんだね。"

"だからなに?"

"とってもきれいだったから、いいなっておもったの"

この時から喜一と僕は園の中でも
一、二を争う仲の良いコンビとして覚えられるようになった。

当時の僕はただ素直に思ったことを口にしたのだけど、喜一にとって僕が彼の瞳の色を羨ましがったのは救いの言葉だったそうだ。

"いやじゃないの?"

"なんで?"

"……へんだって、言われるから"

"きれいだよ。ぼくがすきな色"

それからの喜一の懐きっぷりは最高に気持ち悪かったことを思い出しつつ、彼の表情を伺えばへらりと笑った。

「いたっ! 何!? なんでぇ?!」

ムカついたからすねを蹴っておいた。

小学校も高学年に入れば、
成長の早い女子たちはハーフの彼に色めき立ち始め、最初のそっけなさはどこへ行ったのだとつっこみたくなるほど彼にアピールを始めた。

中学になればそれが当たり前になり、
彼はまた別の意味でハーフとして生まれたことに悩みはじめた。

「ねぇねぇ、ゆぅちゃん」

「何?」

「今日から転校生くるの知ってるー?」

「知らない。」

「帰国子女なんだってぇー! 楽しみだよねぇー」

ニコニコと笑っている彼がどこまで本音で話しているのかわからない。
元々あまり交友関係を持とうとしない性格だから、内心自分に向いてる視線が帰国子女というブランドを持つ生徒に移ってくれないものかと目論んでいるのではなかろうか。

「どんな人だろうね。」

「英語の成績はトップ確実かなぁー?」

「意外と現地にいた人ってスラングとか使ったりするから日本の型にハマった英語だとダメかもね。」

「やだぁーゆぅちゃん夢がない」

そんなことを話していれば校門にたどり着いた。
生活指導の鬼熊(おにぐま)が今時竹刀を片手に
生徒たちの服装チェックを行なっている。

「相変わらずお前は目立つなー真柴。」

「これが地毛ですからぁー」

「星野がしっかりしてる分目立つんだよなー。転校生に怖がられないようにするんだぞ!」

「はぁーい」



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