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暁の空
1

「おはよう裕介。そろそろ起きて朝ごはん食べなさい。」

低くもなく高くもない丁度いい耳触りの音に夢の世界から呼び戻される。

開けられたカーテンが朝の光を
存分に部屋に注ぐ。
あまりの眩しさに目が開かなくて、
何度かゴシゴシと擦れば、
少しずつ白飛びした世界に色が戻る。

「おはよう、母さん。」

ダークブラウンに染められた髪が揺れて、
優しげな瞳と重なり合う。
毎朝繰り返されるこの会話は
今年で14年目になる。

「朝ごはんできてるから顔洗っておいで。」

「うん。」

のっそりと起き上がって部屋を出て、
階段を降りれば右手に洗面台がある。

バシャバシャと顔を洗ってふかふかのタオルで拭いていれば、
先程の穏やかさはどこに捨てたのだろうかというほどの怒声が響き渡った。

「なんであんたはそう飽きもせず、
毎日毎日夜更かしできんのよ!」

ドタドタと2階から聞こえてくる足音は
夜更しが大好きで毎日のごとく寝坊しては
遅刻ギリギリで学校に通っている兄・忠信との格闘を意味している。

彼が降りてくる頃には僕は朝食を食べ終えていて、食器を流し台に運んでいる。

「おはよう兄さん。」

「……。」

元々低血圧のくせに夜更しなんてするものだから、朝の彼は屍のような顔をしている。
返事なんてものはなくて重たそうな足取りで
席につくんだ。

自室に戻って制服に着替える頃には
2度目の母の怒声が響き、
なかなか朝食が進まない兄の姿が目に浮かぶ。

前日に中身を用意しておいたスクールバッグを手にして玄関に迎えば、
既に疲れた様子の母がお弁当を手渡してくれる。

地元ではそこそこ名の知れた私立中学校に通う僕は給食がないため、こうして毎朝母がお弁当を作ってくれる。

実はというと母はあまり料理が得意ではなくて、
味付けが濃すぎたり、逆に薄かったり。
焦げていたり生だったりと何かしらツッコミどころがあるのだが、
それでも母が作るお弁当を食べるのが好きだった。

一生懸命な母の気持ちが伝わり、
何より生まれた頃から常に注がれてきた愛情を知っているからかもしれない。

「ちょっと卵焼き焦がしちゃった……。」

「気にしないよ。いつもありがとう。」

申し訳なさそうな顔をしなくてもいいのにと思いつつ玄関の扉を開ける。

「行ってきます。」

「行ってらっしゃい!」

いつも通りの朝が来て、
いつも通りの中学校生活が始まる。
そう思っていたんだけど、
今日は一つだけ変化が起きたんだ。

まさか僕の人生に多大な影響をもたらすなんて思ってもみなくて、
この時の僕は呑気に構えていたんだ。



僕は今日、中学二年生になった。



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