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暁の空
3
そんな僕も23歳でこの世を去った。
兄にはアホだのバカだの罵られ、
父には親不孝ものだと怒鳴られ、
母は声を枯らして泣いていた。

突然失われた妹の死と違い、
僕の命には期限があることをあらかじめ知らされていたから"その時"の覚悟はできていると言っていたのに、
いざその時が訪れたら結局、皆それぞれの感情をぶちまけるだけぶちまけて

僕とお別れしてくれたんだ。



「親不孝で、ごめんね。」

病室のベッドの上で見舞いに来てくれた両親にそう告げた時、母の顔がくしゃりと歪んで足早に病室から出て行った。

子どもの死というものは
親にとってそのプライドを崩すには十分すぎるようで、必死に強がる2人を見て罪悪感に襲われる。

「親を泣かすなんて僕は地獄に落ちるかな?」

「母さんはお前の母である前に私の妻だ。
人の女を泣かせておいて呑気に天国で暮らせると思うな。」

「そうだね。閻魔様に怒られてこなきゃ。」

寡黙な父が答えてくれたけど僕の意識は違う方向に向いていて、
自分の父はこんなに小さかっただろうかと重い瞼を持ち上げて必死に目に焼き付ける。

「りぃはお兄ちゃんだって気づいてくれるかな?」

「あの子は天国にいるからお前と会うことはないだろう。安心しろ。」

「えー……。せめて可愛い妹と再会することぐらいは許してほしいな。」

幼なじみの笑い方が身についてへらりと笑った僕を相変わらず父は無表情で見下ろしていた。

瞼が重い。
力が入らない。

もう少し起きていたくて必死にまぶたに力を入れて持ち上げていた。

異常なまでにゆっくりに感じる時間の流れの中でいよいよ眠気に勝てなくなってきた頃、
勢いよく病室の扉が開かれて
息を乱した兄が転がり込んできた。
その隣には長いまつ毛を濡らした母がいた。

「お前! 母さん泣かすなよアホンダラ!」

何事かと思って視線を向ければ、
開口一番にそれはないと思う。
自然と上がる口角に対してまた文句を言う彼は、
ベッドのそばまで歩み寄ってくると
僕の右手を握りながらそっと淵に座った。

乱れた呼吸を整えて、
一つ深呼吸をした彼がゆっくりと口を開いた。

「なあ。」

「なーに?」

「いいのか? あいつに会わなくて。」

「いーんだよ。会わない方が。」

「でも!」

「兄さん。」

「……っ。」

「会ってしまったら、僕は笑顔でお別れができなくなる。……きっと、後悔ばかりが心に浮かんで地縛霊になっちゃう。」

「……裕介。」


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あきゅろす。
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