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暁の空
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23年前、僕は星野家の次男として、
学者の父と専業主婦の母の間に生を受けた。
3つ年上の兄と2つ年下の妹がいたけど、
僕が8歳を迎えてすぐに妹はこの世を旅立った。

りぃという愛称で呼ばれていた妹は、
物語に出てくる白雪姫のように愛らしくて、
よく笑う子だった。

幼稚園からの帰り道に
信号無視を犯した軽自動車が交通ルールを守って運転していた老夫婦の車と衝突して、
反動で横転した車の下敷きになった。

妹の迎えに行っていた母が少し目を離した隙に
好奇心に負けて移動してしまったせいで巻き込まれ
あまりにも短い生涯を終えてしまった。

小学校にいた僕は担任教師が慌てて教室になだれ込んできてすぐに家に帰るように支持をされたから
いつも通りの道を兄と一緒に少し駆け足で帰ったんだ。

家に帰りついた時、見慣れない男の後ろ姿が見えてすぐにそれが父だと気づいた。
日本にいたんだと呑気なことを考えていた矢先にりぃが死んだことを涙ながらに伝えられた。

すぐに歪む兄の顔を見て、
苦しそうな表情の父を見て、
悲しいことが起こったのだと理解した。

人の死というものを当時の僕が理解していたのかは怪しいけれど、その日以来我が家から笑顔が消えてりぃの姿が見えなくなったことを覚えている。

留守がちな父が帰ってきて見せた涙、
強くて頼れる母のくしゃくしゃに濡れた顔、
必死に妹の死を受け入れて家族の支えになろうとする幼い兄。

そして、夢と現実の区別がつかなかった僕。

早すぎた妹の死を、
初めて触れた人の死を理解するには
僕はあまりにも幼かった。

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あきゅろす。
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